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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常⑤ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

APTTだけの異常

目下のところ、APTTの検査方法はPT-INRのようには標準化されていない。したがって、検査機器の較正の仕方や試薬の種類によって結果にばらつきが生ずるので、各施設における正常値を知っておかなければならない。正しく検体が採取されている場合、APTT(接触活性化経路)のみが延長する原因として最も頻度が高いのは、未分画ヘパリン、ヒルジン、アルガトロバンまたは遺伝子組み換えヒト活性化プロテインC(rhAPC)の使用である。このうちヘパリンは典型例である。ヘパリンはアンチトロンビンと結合し、第XⅡ、XⅠ、Ⅸ、ⅩおよびⅡ因子を阻害する。このうち三つ(Ⅸ、XⅠ、XⅡ)は接触活性化経路に特異的な凝固因子であり、共通系に属する他の二つ(ⅩとⅡ)よりもヘパリンの影響を受けやすい。PTよりもAPTTの方がヘパリンによって大きく変化する。血液検体に誤ってヘパリン(または低分子量ヘパリン)が混入した場合、in vitroでヘパリンを拮抗するためにヘパリナーゼを添加してもよい。TTが正常であればAPTT延長の原因がヘパリンであることを否定することができる。なぜなら、TTはヘパリンに非常に鋭敏に反応するので、TTが正常値であればヘパリンの影響がないと言い切れるのである。未分画ヘパリンのボーラス投与後や誤って過量投与した後でヘパリンの血中濃度が非常に高ければ、第ⅡおよびⅩ因子も阻害され、PT、APTT共に延長する。内因性の凝固能障害ではAPTTが100秒を超えることはまずない。したがって、APTTが100秒以上に延長しているときには、ほぼ確実にヘパリンが影響していると言える。死亡の危険性が高い重症敗血症の治療薬としてrhAPCを用いている場合はAPTTの評価に注意が必要である。rhAPCは半減期が10~15分なので、採血後15~30分後にAPTTを測定する場合よりも、ただちに検査したときの方が結果が延長する。

APTTが延長しているほど出血の危険性が高いことが経験的に広く指摘されているが、この両者の相関を裏付けるデータは少ない。抗凝固薬は種類を問わず過量投与すれば出血を引き起こす可能性があり、その治療法は考えるまでもなく明らかである;大半の症例では抗凝固薬を中止すれば数分から数時間以内に抗凝固作用が消失する。未分画ヘパリンの作用を急いで拮抗しなければならない場合は、硫酸プロタミンを用いる。体内に残ったヘパリン100単位に対しプロタミン1mgを投与することが推奨されているが、実際はどれだけのヘパリンが活性を保って体内に残っているかを判断するのは難しい。プロタミンはフォンダパリヌクスを拮抗することはできない。

APTTは接触活性化経路を構成する凝固因子の阻害因子が存在する場合も延長する。たいていの場合、この阻害因子はリン脂質に対する抗体である(ループス抗凝固因子や抗カルジオリピン抗体)。稀には、特定の凝固因子に対する抗体であることもある。阻害因子を検出するには、患者血漿に等量の正常血漿を混合する検査を行う。しかし、抗凝固剤が混入すると阻害因子の作用と区別できなくなるため、混合試験を行う際は抗凝固剤が混入しないように注意しなければならない。患者検体中に阻害作用を持つ抗体が存在すれば、混合試験によるAPTTの結果は延長したままである。単なる凝固因子の欠損であれば、混合試験によるAPTTは正常化する(いずれかの凝固因子が欠損していても、混合試験を行えばすべての凝固因子が少なくとも正常値の50%レベルにはなる。凝固因子が正常の半分もあればAPTTの結果は正常値を示す。)。この原則の例外は、抗第Ⅷ因子抗体が存在する場合である。検体をすぐに混合して検査を行うとAPTTは正常値を示すので、正常血漿と患者血漿を長時間(2時間ぐらい)incubationしてから混合し検査を行うと、APTTが延長していることが分かる。臨床的に必要であれば、どの凝固因子が欠損しているかを同定する特異的な検査を行う。抗リン脂質抗体を保有する患者では、ヘパリンによる抗凝固作用を監視するのが困難なことがある。なぜなら、ヘパリン投与前からAPTTが延長していたり、ヘパリンを開始するとAPTTが著しく延長することがあったりするからである。いずれの場合も、未分画ヘパリンの抗凝固作用のモニタリングには抗Ⅹa活性検査が有用である。

Figure 2に示した通り、第Ⅷ因子(血友病A)、第Ⅸ因子(血友病B)、第XⅠ因子、第XⅡ因子の欠損または阻害因子があるとAPTTのみが延長することがある。ただし、各凝固因子の血中濃度がかなり低くならなければAPTTは延長しない。理論的には、凝固因子の欠損は新鮮凍結血漿(FFP)の投与によって是正することができる。しかし、FFPの投与は非効率的であり、患者を感染、容量負荷および輸血反応などの危険にさらすことになる。クリオプレシピテートは第Ⅷ因子とvWFの濃縮製剤である。第ⅧおよびⅨ因子については遺伝子組み換え製剤が市販されていて、この製剤にはヒト血漿が含まれていないので感染リスクは皆無で、投与水分量が少なくて済む。現在では、クリオプレシピテートよりも遺伝子組み換え製剤の方が好んで使用されている。後天的に第Ⅷ因子インヒビターを獲得した患者では、バイパス療法や遺伝子組み換え活性化第Ⅶ因子製剤投与によって、第Ⅷ因子の機能不全に対処することができる。さらに、プロトロンビン複合体濃縮製剤が世界中で15社以上から市販されているので、第Ⅸ因子欠損症の治療にはこの製剤を用いる。米国以外では、第XⅠ因子濃縮製剤および第XⅢ因子濃縮製剤も市販されている。単一凝固因子の欠損症が疑われるまたは確定している患者の治療にあたる際は、血液凝固の専門家に相談すべきである。こうした疾患の治療は複雑で費用がかかり、場合によっては危険が伴うからである。

教訓 PTよりもAPTTの方がヘパリンによって大きく変化します。TTが正常値であればヘパリンの影響がないと言えます。内因性の凝固能障害ではAPTTが100秒を超えることはまずありません。APTTが延長しているほど出血の危険性が高いことを示すデータは、実はあまりありません。
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