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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常④ [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

可溶性凝固因子の異常

はじめに
単一凝固因子の先天性欠損症の発生率は、100万人当たり0.5~2名である。先天性凝固因子欠損症の多くは小児期の大出血を契機に診断される。しかし、フォンウィルブランド病の場合は、成人期に至るまで出血素因が明るみに出ないことがある。また、プロテインCまたはプロテインS欠損症や第Ⅴ因子ライデン変異のように、血栓性素因をもたらす凝固因子欠損症も、成人になるまで診断されないことがある。

成人ICUで見られる可溶性凝固因子の異常の大半は、後天性で、複数の凝固因子の異常を呈する。したがって、抗凝固薬投与例を含む、このような後天性凝固能障害の大部分では、PTもAPTTも延長する。凝固能検査の結果が異常のときは、全体的な臨床像を踏まえて評価を行わなければならない。なぜなら、いずれの検査結果についても、唯一無二の解釈は存在しないからである。重症患者でよく見られる病態における凝固能検査の結果をTable 3にまとめた。In vitroの凝固能検査では凝固能低下が認められても、臨床的には出血のリスクはなかったり、むしろ血栓症のリスクが高かったりする場合も多い。例えば、稀な疾患であるHMWK(高分子量キニノゲン)欠損症では、APTTは著しく延長するが、出血のリスクは上昇しない。抗リン脂質抗体症候群でもAPTTは延長するが、この疾患では血栓症が起こりやすい。したがって、APTTやPTが延長しているからと言って、必ずしも出血性素因があるとは限らない。一方、プロテインCまたはプロテインSなどの可溶性凝固因子の欠損症では、異常な血栓形成が認められる。先天性血栓性素因の発生率は低くはないが、きちんと評価が行われている症例は少ない。先天性血栓性素因については他文献を参照のこと。

PTだけの異常
Figure 1を見れば分かるように、組織因子(外因性)経路だけの異常はPT検査で分かる。第Ⅶ因子の異常があるときにのみPTは異常値を示す。第Ⅶ因子欠損症は常染色体劣性遺伝の疾患で、報告例はあるものの非常に稀である。第Ⅶ因子は肝臓で合成され、半減期はわずか4-6時間である。肝不全の初期やワーファリンによる抗凝固療法開始後早期には、PTのみが延長することがある。しかし、肝不全発症後またはワーファリン投与開始後数日以内には、肝臓で合成される他の半減期の長い凝固因子(第Ⅸ、XおよびⅡ因子)も減少するため、PTだけでなくAPTTも延長する。第Ⅶ因子の合成にはビタミンKが深く関与しているため、低栄養や広域スペクトラムの抗菌薬使用などによる軽度のビタミンK欠乏症であっても、PTのみが延長し、APTTは正常値を呈することがある。しかし、より重度のビタミンK欠乏症では、第Ⅶ因子以外のビタミンK依存性凝固因子も減少し、PTと共にAPTTも延長する。

教訓 APTTやPTが延長しているからと言って、必ずしも出血性素因があるとは限りません。抗リン脂質抗体症候群やHMWK欠損症(稀)でもAPTTは延長しますが、むしろ血栓症が起こりやすいので周術期DVT予防などの注意が必要です。
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