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重症患者の凝固能低下~凝固因子の異常② [critical care]

Coagulopathy in Critically III Patients Part 2–Soluble Clotting Factors and Hemostatic Testing

CHEST 2010年1月号より

一般的な検査

プロトロンビン時間(PT)は、組織因子経路と共通系経路を評価する指標である(Fig. 1)。PTの測定法を理解するのは比較的簡単である:抗凝固剤としてクエン酸を添加した血漿を遠心分離し血小板を除去する。そして組織因子(完全トロンボプラスチン=組織因子とリン脂質の複合体)とカルシウムを加え凝固を起こさせる。この手順により第7因子が優先的に活性化され、次いで第X、ⅤおよびⅡ(プロトロンビン)が活性化される。活性化されたプロトロンビンによってフィブリノゲン(第Ⅰ因子)からフィブリンが形成される。フィブリンは光学的または電子的方法によって検出される。フィブリンが検出されるまでの秒数がプロトロンビン時間である。PTが関わる凝固過程は数少ない段階から成るためか、もしくは第Ⅶ因子は凝固因子の中で最も循環血液中の濃度が高いためか、PTは比較的変動しにくい。通常は、PTが関与するいずれか一つの凝固因子が正常の10%未満にまで減少しなければ、PTは延長しない。Figure 1に示した通り、この経路にだけ関与する凝固因子は第Ⅶ因子のみである。したがって、第Ⅶ因子だけの欠乏がある場合にのみ、APTT正常でPT延長という結果が生ずる。PT測定に用いる検査試薬の感度には、施設間および場合によっては経時的なばらつきがあるため、PTの結果は国際標準比(INR)としてあらわされる。INRを用いれば、ワーファリンを使用し抗凝固療法が行われている患者の抗凝固の程度を標準化された方法で評価することができる。INRによる補正法は、ワーファリンで安定した抗凝固が達成されている患者のPTを基準にして開発されたものである。したがって、肝不全など他の原因によるPT延長症例に適応するのが妥当かどうかは、はっきりしていない。

接触活性化経路と共通系経路を評価する指標であるAPTTはPTより複雑であるが、名前から活性化部分トロンボプラスチン時間という名前そのものが、この検査を理解する助けになる。血小板を除去したクエン酸添加血漿に粒子状の接触活性化物質(例;エラグ酸、カオリン、セライト、シリカ)を加え、「活性化」を引き起こす。そして「部分トロンボプラスチン」(完全トロンボプラスチンから組織因子を除いたという意味)を加え、次にカルシウムによってクエン酸の作用を拮抗する。Figure 2に示した通り、粒子状の接触活性化物質は第XII因子を活性化させる。活性化した第XII因子によって第XI因子、第Ⅸ因子、第Ⅷ因子の順に活性化が進む。活性化第Ⅷ因子によって共通系経路が活性化され、第Ⅹ因子の活性化からはじまりフィブリンが形成される。PTと同様に、APTTも秒数であらわされる。APTTの関わる経路はたくさんの段階から成り、関与する各凝固因子の血中濃度が低いためか、そのうちの一つの凝固因子が正常の15~30%ぐらいに低下するだけでAPTTは延長する。複数の凝固因子がわずかに減少していてもAPTTは延長することがある。したがって、凝固因子量の変化を捉える鋭敏な方法として用いられる。特に第Ⅷ因子および第Ⅸ因子の変化を評価するのにAPTTは有用である。プレカリクレイン、高分子量キニノゲン(HMWK)、もしくは第XII因子のいずれかの欠乏症や抗リン脂質抗体のある症例でもAPTTは延長するが、前二者は稀であるとともに、四つのうちいずれであってもAPTTが延長するだけで出血の危険性は増大しない。事実、抗リン脂質抗体のある患者は、APTTが延長していても血栓症を起こしやすい。

低分子量ヘパリン(LMWH)が広く用いられるにつれ、行われる機会が増えてきた検査が抗Ⅹa活性検査である。抗Ⅹa活性検査はAPTTと比べ、第Ⅷ因子に代表される急性相反応物質の影響を受けにくいという利点もある。この検査の方法は単純であるが、大半の臨床医には馴染みが薄い:血小板を除去したクエン酸添加血漿に、十分量の第Ⅹa因子とアンチトロンビンを加える。検体中に何らかのヘパリン類似物質があれば、アンチトロンビンと結合し、第Ⅹa因子活性を阻害する。第Ⅹa因子の阻害の程度は発色基質を用いて測定する。第Ⅹa因子が強く阻害されるほど発色が弱くなるため、患者血漿を加えない対照検体の発色と比較し、阻害の程度を知る。LMWHやフォンダパリヌクスなどの第Ⅹa因子阻害薬はアンチトロンビンⅢのペンタサッカライド結合部位に結合し第Ⅹa因子を阻害するが、単糖鎖が短いためトロンビン(第Ⅱa因子)とはあまり結合せず、トロンビン阻害作用は弱い。したがって、LMWHやフォンダパリヌクスの効果を知るのに抗Ⅹa活性検査が必要とされるのである。APTTは未分画ヘパリンのモニタリングには有効であるが、低分子量ヘパリンについては感度が低い。一般にはあまり知られていないが、抗Ⅹa因子阻害薬はAPTTおよびPTをわずかに延長させる(平均1-4秒)。しかし、抗Ⅹa因子阻害薬はトロンビンとは十分に結合しないので、未分画ヘパリンほどには凝固時間を変化させることはない。LMWHの体重当たり投与では、抗凝固の程度を正確に予測することができるため、モニタリングが必要となることは稀である。抗Ⅹa活性検査が必要となる可能性があるのは、体重が著しく重いまたは軽い患者、GFR<30-50mL/minの患者および高心拍出量で普通より腎クリアランスが高い患者(例;妊婦、新生児)などである。

教訓 PTが関与するいずれか一つの凝固因子が正常の10%未満にまで減少しなければ、PTは延長しません。第Ⅶ因子だけの欠乏がある場合にのみ、APTT正常でPT延長という結果になります。
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