SSブログ

ショックの治療:ドパミン vs ノルエピネフリン~考察 [critical care]

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

NEJM 2010年3月4日号より

考察

ショックの治療において投与する昇圧薬の第一選択としてドパミンとノルエピネフリンを比較した今回の多施設無作為化二重盲検試験では、ドパミン群とノルエピネフリン群のあいだに28日後死亡率の差は認められなかった。ノルエピネフリン群よりドパミン群の方が不整脈の発生率が高く、割り当て試験薬の中止を余儀なくされるほどの重篤な不整脈の発生率もドパミン群の方が高かった。さらに、予め設定したサブグループについての解析では、心原性ショックのサブグループではドパミン群の方がエピネフリン群よりも死亡率が高いという結果が得られた。

本研究における28日後死亡率は50%近くに上った。除外基準として定めた条件が非常に少ないことから当初よりこれぐらいの死亡率になることは予測されていたし、先行する観測研究でもショック患者の死亡率は50%内外である。本研究は、ショックに対する治療を行われた患者を全員対象とした、実状をよく反映する研究であり、だからこそ外的妥当性は高い。無作為化に先立ちopen-labelの昇圧薬が投与されていてもよい期間は最長4時間とし、また、28日間の研究期間中に昇圧薬の投与量を減量・中止する際は割り当て試験薬の中止は最後、再開を要する場合は割り当て試験薬からとしたため、試験対象薬が可能な限りたくさん使用されるような研究設計になっていた。

本研究よりも対象患者数の少ない観測研究では、敗血症性ショック患者にはドパミンは好ましくないという結果が得られている。しかし、Povoaらはドパミン群の方がノルエピネフリン群よりも死亡率が低いことを報告している。今回の研究では、1000名以上の敗血症性ショック患者が登録されたが、ドパミン群とノルエピネフリン群とのあいだに転帰についての有意差は認められなかった。

心原性ショックの患者については、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より有意に死亡率が高かった。だが、心拍出量はノルエピネフリンを投与するよりもドパミンを投与する方が良好に維持できるのではなかろうか、という意見もあろう。心原性ショックにおけるドパミンによる死亡率上昇のはっきりした原因は分からないが、死亡率の差が早期に生ずることから、ドパミンによって心拍数が増加することにより虚血性変化が起こったのかもしれない。現行のACC-AHAガイドラインでは、急性心筋梗塞により低血圧を呈している患者の動脈圧を上昇させる際の第一選択薬をドパミンと定められている。本研究のデータがもたらされた機序が何であれ、以上の結果はこのガイドラインの見直しを強く迫るものである。

本研究には二、三の問題点がある。第一に、ドパミンの昇圧作用はノルエピネフリンよりも弱い。しかし、時間投与量を調整することにより収縮期血圧に与える作用を概ね同等としたし、open-labelノルエピネフリンの使用率には群間にわずかな差しか生じなかった上、その大半は不整脈の治療に難渋し割り当て試験薬を早々に離脱しopen-labelノルエピネフリンに変更した例であった。また、open-labelノルエピネフリンの使用量と、open-labelエピネフリンおよびopen-labelバソプレシンの使用頻度は、両群同等であった。第二に、逐次解析を行ったことが問題点として挙げられる。この手法では、観測研究から予測されるよりも大きな効果が認められた場合には、研究を早期中止することになる。しかし、本研究では当初予測した標本数よりも多数の患者を登録した後にようやく中止要件を満たした。したがって、予め目標とした検出力で主要転帰に関するあらゆる結果を得ることができた。

まとめ

本研究では、ドパミン群とノルエピネフリン群とのあいだに死亡率の有意差は認められなかったが、ドパミンを第一選択とする治療法には安全性に重大な問題がある可能性が浮かび上がった。なぜなら、ノルエピネフリンと比較しドパミンは不整脈を起こす頻度が高く、心原性ショックのサブグループにおいては死亡率を上昇させることが明らかになったからである。

教訓 この研究における28日後死亡率は約50%でした。心原性ショックの患者で、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より死亡率が有意に高かった理由はよく分かりませんが、心拍数増加→心筋虚血が関与している可能性があります。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。