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ショックの治療:ドパミン vs ノルエピネフリン~結果 [critical care]

Comparison of Dopamine and Norepinephrine in the Treatment of Shock

NEJM 2010年3月4日号より

結果

患者
1679名の患者が対象となった。内訳は、ドパミン群858名、ノルエピネフリン群821名であった(Fig. 1)。全患者が研究第28日まで把握された。入院中の転帰についてデータが得られたのが1656名(98.6%)、6ヶ月後の転帰データが得られたのは1443名(85.9%)、12ヶ月後の転帰が判明したのは1036名(61.7%)であった。基準時点の背景因子については概ね有意差は認められなかった(Table 1)。心拍数、動脈血二酸化炭素分圧、動脈血酸素飽和度およびP/Fについて、臨床的意義はないと判断してよいと考えられるほどのわずかな差が認められた。ショックの種類のうちもっとも多かったのは敗血症性ショック(1044名[62.2%])であった。次に心原性ショック(280名[16.7%])、循環血液量減少性ショック(263名[15.7%])が続いた。敗血症性ショック症例における感染源はSupplementary AppendixのTable 2に示した。ドパミン群のうち344名(40.1%)、ノルエピネフリン群のつい326名(39.7%)にハイドロコルチゾンが投与された。敗血症性ショック患者のうち遺伝子組み換えヒト活性化プロテインCが投与されたのは、ドパミン群102名(18.8%)、ノルエピネフリン群96名(19.1%)であった。

血行動態の変数および血管作働薬の投与量についてのデータはSupplementary AppendixのFigure 3およびFigure 4に示した。基準時点における平均動脈圧は両群で同等であった。経時的変化も類似していたが、12時間後から24時間後にかけてはノルエピネフリン群の方がわずかに高かった。研究対象薬の投与量は、いずれの時点においても両群で同等であった。いずれかの時点においてopen-labelのノルエピネフリンを要した患者の割合は、ドパミン群の方が高かった(26% vs 20%, p<0.001)。しかし、open-labelノルエピネフリンの投与量は両群で同等であった。いずれかの時点においてopen-labelのエピネフリンを要した患者の割合は両群で同等であった(ドパミン群3.5%、ノルエピネフリン群2.3%, P=0.10)。バソプレシンについても同様であった(両群0.2%, P=0.67)。ドブタミンが投与された患者の割合はノルエピネフリン群の方が多かったが、無作為化割り当て後12時間語におけるドブタミン投与量は、ドパミン群の方が有意に多かった。平均動脈圧が65mmHgに上昇するまでに要した平均時間は両群同等であった(ドパミン群6.3±5.6時間、ノルエピネフリン群6.0±4.9時間, P=0.35)。輸液の総投与量については目立った群間差は認められなかったが、ドパミン群の方が第1日の輸液量がノルエピネフリン群より多かった。無作為化24時間後までの尿量は、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より有意に多かったが、この差は最終的には消失し、水分出納については両群ほぼ同じであった。

心拍数の増加幅は無作為化36時間後までは、ドパミン群の方がノルエピネフリン群より大きかった。心係数、中心静脈圧、静脈血酸素飽和度および乳酸値は、両群同等であった。

転帰
ドパミンとノルエピネフリンとのあいだに差がないことをP値0.05のレベルで示す試験中止要件が満たされた(Supplementary Appendix Fig. 5)。28日後死亡率、ICU死亡率、院内死亡率、6ヶ月後死亡率および12ヶ月後死亡率のいずれについても群間に有意差は認められなかった(Table 2)。Kaplan-Meier曲線による予測生存率の解析では、有意差は得られなかった(Fig. 2)。APACHEⅡスコア、性別およびその他の重要な変数についてのCox比例ハザード解析でも結果は同様であった(Supplementary Appendix Fig. 6)。割り当て試験薬が不要であった日数およびopen-labelの昇圧薬が不要であった日数は、ドパミン群よりノルエピネフリン群の方が少なかった。一方、ICUでの治療が不要であった日数および臓器補助が不要であった日数については群間に有意差は認められなかった(Table 3)。死因について有意差はなかったが、ショックが治療抵抗性であった症例はドパミン群の方がノルエピネフリン群より多かった(P=0.05)。

有害事象
全体で309名(18.4%)に不整脈が発生した。最も多かった不整脈は、心房細動で266名(86.1%)に認められた。ノルエピネフリン群よりドパミン群の方が不整脈、中でも心房細動の発生頻度が高かった(Table 3)。重篤な不整脈のため、割り当て試験薬の投与中止を要した患者は65名であった。内訳は、ドパミン群52名(6.1%)、ノルエピネフリン群13名(1.6%)であった(P<0.001)。この投与中止を要したこの患者についてもITT解析の対象とした。その他の有害事象の発生率については群間差は認められなかった。

追加解析
ショックの類型について予め設定したサブグループについての解析を行った。各サブグループの内訳は、敗血症性ショック1044名(ドパミン群542名、ノルエピネフリン群502名)、心原性ショック280名(ドパミン群135名、ノルエピネフリン群145名)、循環血液量減少性ショック263名(ドパミン群138名、ノルエピネフリン群125名)であった。治療の総合的効果について、サブグループ間に有意差は認められなかった(交互作用のP=0.87)。ただし、心原性ショックのドパミン群の方が、心原性ショックのノルエピネフリン群と比べ、28日後死亡率が高かった(P=0.03)(Fig. 3)。ショック種類別サブグループのKaplan-Meier曲線をSupplementary Appendix のFigure 7に掲載した。

教訓 28日後死亡率(主要エンドポイント)、ICU死亡率、院内死亡率、6ヶ月後死亡率および12ヶ月後死亡率のいずれについてもドパミン群とノルエピネフリン群のあいだに差はありませんでした。有害事象(不整脈、特に心房細動)はドパミン群の方が多く認められました。
コメント(2) 

コメント 2

松岡順子

メネシット&アーテンを服用しています、が
ドプスを飲んでみては?と言われました。

貴殿の記事を読み

メネシット治療中にドプスを試すということは
「ドーパミン」対決「ノルエピネフリン」のショック療法
に思えて、怖い思いです。

もっと詳しい記事と、結果を教えて頂けないでしょうか。
英語能力30%ではNEJM英語記事は読み切れないものでー。

by 松岡順子 (2011-07-21 12:51) 

vril

コメントをいただきありがとうございます。ショックや敗血症のときに、ドパミンとノルアドのどちらがよいか、という問題については色々な研究が行われています。最近のレビュー(Norephinephrine or Dopamine for Septic Shock: A Systematic Review of Randomized Clinical Trials J Intensive Care Med. 2011 Mar 24)でも、本記事と同様にノルアドの方が28日後死亡率が低いという結論に達しています。

ただし、ショックや敗血症と、パーキンソン病では病態が全く違いますし、治療のエンドポイントにも径庭があります。集中治療領域において得られている知見を敷衍することは妥当ではないと思われます。担当医とよくご相談ください。
by vril (2011-07-22 08:49) 

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