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重症患者の凝固能低下~血小板の異常④ [critical care]

Coagulopathy in Critically Ill Patients Part 1: Platelet Disorders

CHEST 2009年12月号より

免疫を介した血小板減少症

薬剤性血小板減少症と免疫性血小板減少症

免疫が関与する血小板減少症は、抗血小板抗体の産生とそれに引き続く血小板破壊によって生ずる。抗血小板抗体は、特発性に生ずることもあるし、薬剤、感染(例;サイトメガロウイルス、HIV、EBウイルス、パルボウイルス)、輸血後もしくは移植後の拒絶反応によって生ずることもある。血小板減少症の原因となる薬剤は多数存在する。抗腫瘍薬以外の代表的な原因薬剤をTable 3にまとめた(さらに詳しいリストはhttp://moon.ouhsc.edu/jgeorge/DITP.htmlで入手可能)。ICUでは、薬剤性血小板減少症は見逃されてしまうことがある。原因薬剤の投与開始から一週間以上経過してから発症することが多く、特徴的な臨床徴候もなく、薬剤以外にも血小板減少症を来す可能性のある原因がいくつもあるからである。とは言え、薬剤性血小板減少症は、原因薬剤の投与を中止するだけで軽快することもあるので、こういう疾患の存在を頭の片隅に止めておくことは重要である。薬剤に起因する血小板破壊は、通常は抗血小板抗体が産生されるために起こる。抗血小板抗体は、原因薬剤存在下で正常血小板と結合する。プロカインアミドなどの少数の薬剤のみが、原因薬剤が存在しなくても血小板と反応する自己抗体の産生を誘発する。薬剤によって生成される血小板関連抗体が形成するいろいろな複合体が明らかにされているが、in vitro検査を行っても感度と特異度が低いので、たいていは役に立たない。薬剤性血小板減少症の三つ目の機序は、薬剤と血小板の直接反応による血小板破壊である。例えば、tirofiban(血小板凝集抑制薬)は血小板表面のGP IIb/IIIa受容体に作用し、血小板の形状を変化させることにより、抗体の認識を容易にする。

HIT

血小板減少症を来す細胞毒性を持たない原因薬剤のなかで、最もよく遭遇するのがヘパリンである。ヘパリン投与を開始するとはじめの2-3日に多くの症例で中等度かつ可逆性の血小板数低下が認められ、時としてこれは1型HITと呼ばれる。しかし、本来HITとは、抗体が形成され、血小板数が低下し、血栓症が発生する症候群を特異的に指す用語である。これを2型HITと呼ぶことがある。発生頻度は調査対象患者によって大きなばらつきがあるが、複数回にわたり大量の未分画ヘパリンが投与される患者で発生率が最も高い。この疾患は、血栓症による致命的な合併症が生ずるため広く知られている。未分画ヘパリンが最長7日間使用された患者における2型HITの発生頻度は5%未満である。静脈路や動脈圧ラインのフラッシュ、透析時の使用、DVT予防の皮下注など、投与量に関わらずいずれの製剤のヘパリンを使用してもHITの発生や増悪の原因となり得る。低分子量ヘパリンでもHITが起こることがあるが、頻度はかなり低い。また、第Ⅹa因子阻害薬であるフォンダパリヌクスに起因するHITが発生したという症例報告もある。

ヘパリン使用歴がなかったり、最終投与からかなり時間が経っていたりする患者にヘパリンを開始した場合、HITによって血小板数が低下しはじめるのは5-10日後からである。しかし、ヘパリンの最終投与から時間が経っていない患者にHITが発生すれば、数時間以内に血小板数が低下し始める。HIT症例では、血小板数が10×10^9/Lを下回り出血を呈することは稀である。HIT患者における最大の危険は血栓であり、そのリスクはHITでない患者の30倍にものぼる。HIT症例で認められる血栓は特異なものではなく、HITの症候のうちもっとも多いのはDVTである。

HITの病態生理は複雑であり、詳しくは別の文献に譲るが、以下に手短にまとめる。ヘパリンは血小板第4因子(PF4)に結合しヘパリン-血小板第4因子複合体を形成する。この免疫複合体に抗体が結合すると、血小板が破壊される。ヘパリン-血小板第4因子複合体抗体はELISAで検出が可能である。ただし、感度は高いが特異度は低い。ヘパリン-血小板第4因子複合体抗体があっても、大半はHITを発症しない。ヘパリン-血小板第4因子複合体に反応して血小板が脱顆粒するのを検出する検査法は特異度が高いが、どこでもできる検査ではない。無作為化大規模試験が行われていないため、推奨される治療法は概ね専門家の意見に基づくものである。具体的には、あらゆる種類のヘパリンを中止し、少なくとも血小板数が上がってくるまでは直接トロンビン薬を投与する。血小板数がほどほどのレベル(例;100×10^9/L以上)まで上昇してきたら、ワーファリンの投与を開始し少なくとも3ヶ月は継続する。直接トロンビン薬の投与は、ワーファリンがしっかり効き始めるまで続ける。HIT患者に対するヘパリン再投与の安全性については賛否両論があるが、半年以上はどんな場合も再投与を避け、その後ヘパリン-血小板第4因子複合体抗体が検出されなくなったらヘパリン投与は可能と考えるのが妥当である。

教訓 抗血小板抗体は、特発性のものだけでなく、薬剤、感染(例;サイトメガロウイルス、HIV、EBウイルス、パルボウイルス)、輸血後もしくは移植後の拒絶反応によって生ずることもあります。
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