SSブログ

敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス⑨ [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

まとめ

高二酸化炭素血症は肺保護戦略における重要な構成要素の一つである。しかし、非特異的炎症性傷害モデルの実験でHCAが概ねよい作用をもたらすことが示されているのとは対照的に、生体における本物の細菌感染ではHCAは多岐にわたる複雑な作用をもたらす。高二酸化炭素血症and/orアシドーシスは、多彩な、そしておそらく相反する影響を、細胞性および液性免疫応答に及ぼす。ざっくり言うと、HCAは免疫応答を抑制すると考えられている。しかし、HCAの持つ多彩な作用が総合的にどのような影響として現れるのかは、感染部位や、高二酸化炭素血症によるアシドーシスが緩衝されているか否かによって左右される。動物モデルを用いた実験で、腹膜炎および初期もしくは完成した肺炎を原因とする敗血症によって発生する肺傷害から肺を保護する作用をHCAが発揮する可能性があることが示されている。一方、抗菌薬が投与されず遷延した細菌感染による敗血症におけるHCAの作用は、感染部位によって異なる。つまり、遷延した肺炎では、HCAによる免疫抑制作用が前面にあらわれ、肺傷害が増悪する。適切な抗菌薬治療を行えば、このような悪影響は発現しない。反対に、腹腔内感染による敗血症の遷延例における肺傷害は、HCAによって緩和される。繰り返しになるが、感染源が大きな意味を持つということである。HCAを緩衝すると、敗血症を軽減する作用はほとんど得られず、肺炎による肺傷害を悪化させてしまう。

臨床症例に近い動物モデルを用いた実験で得られた以上の所見から、敗血症、特に腹腔内感染による敗血症と、初期および完成した肺炎による敗血症における、高二酸化炭素血症の安全性が確認された。しかし、遷延した肺炎では、高二酸化炭素血症による免疫抑制作用が憂慮される。ALI/ARDS患者では、低一回換気量の人工呼吸による高二酸化炭素血症には、何の問題もないとされているが、敗血症症例では注意を要する。肺炎遷延例において高二酸化炭素血症がもたらす有害作用は、適切な抗菌薬治療を行うことによって消し去ることができるという点に注目されたい。つまり、高二酸化炭素血症を呈するALI/ARDS症例で敗血症が疑われる場合は、empiricな抗菌薬投与を早めに開始することを積極的に検討すべきである。それでも、選択した抗菌薬が起因菌を十分にカバーできなかったり、耐性菌感染であったりすれば、empiricに抗菌薬を投与したとしても憂慮を払拭することはできない。肺炎遷延例において敗血症に伴う肺傷害が、高二酸化炭素血症によって重症化するという知見は、COPDの感染による急性増悪をはじめとする敗血症以外の患者群においても当てはまるかもしれない。高二酸化炭素血症によるアシドーシスを緩衝してpHを正常化しても、何ら有効性は得られず、かえって肺炎による肺傷害を増悪する可能性がある。

教訓 動物モデルを用いた実験で、腹膜炎および初期もしくは完成した肺炎を原因とする敗血症によって発生する肺傷害から肺を保護する作用をHCAが発揮する可能性があることが示されています。一方、抗菌薬が投与されず遷延した肺炎では、HCAによる免疫抑制作用が前面にあらわれ、肺傷害が増悪します。適切な抗菌薬治療を行えば、このような悪影響を防ぐことができます。反対に、腹腔内感染による敗血症の遷延例における肺傷害は、HCAによって緩和されます。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。