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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス⑥ [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

呼吸器感染症に起因する敗血症における高二酸化炭素血症性アシドーシス

肺炎初期
肺炎初期における高二酸化炭素血症の影響は、肺傷害の程度によって左右されると考えられている。HCAは、中等度の大腸菌肺炎によって生じつつある肺傷害を進展もしくは抑制することはない。しかし、肺内に大量の大腸菌を注入して作成した重症肺炎モデルでは、動脈血二酸化炭素分圧が正常の個体と比べ高二酸化炭素血症の個体の方が肺傷害の程度が軽いという結果が得られている。肺炎による肺傷害が完成するまでの過程におけるHCAの保護的効果は、HCAが好中球機能に与える影響とは無関係であるという興味深い報告がある。HCAは肺炎初期において肺内の細菌を増やすことはないという点が重要である。つまり、HCAによって殺菌能が低下したり、細菌増殖が促進されたりするのではないかという懸念が遠のいたということである。

完成した肺炎
完成した細菌性肺炎の臨床例を相当正確に模したモデルを用いた実験でも、HCAによって肺傷害の程度が緩和されることが明らかにされている。大腸菌肺傷害モデルにおいて、大腸菌注入から数時間後にHCAにすると肺傷害の程度が軽減される。ここで重要な点は、適切な抗菌薬治療が行われているとHCAの保護作用がより大きく発揮されるものの(fig. 3A)、抗菌薬を投与していなくてもHCAには肺炎による肺傷害を軽減する作用があることである(fig. 3B)。実験動物の肺をHCAもしくはnormocapniaに曝露したところ、肺内の細菌量に差はないという結果が示されている。つまり、HCAによって細菌増殖が促進されることを裏付けるエビデンスはない。以上の知見から、肺炎初期と同じく完成した肺炎であってもHCAは安全に実施することができると考えられる。

遷延した肺炎
一方、同じ大腸菌肺炎でも遷延した場合には、高二酸化炭素血症によって肺傷害が悪化することが分かっている。動物の肺内に大腸菌を注入して肺炎モデルを作成し、高二酸化炭素環境に48時間曝露する個体とnormocapniaの個体を比較したところ、高二酸化炭素環境曝露群の方が肺コンプライアンス低下、組織学的傷害の増強、肺胞好中球浸潤の増加の程度が甚だしく、肺へのダメージが強くなることが分かった(figs. 4A&B)。とりわけ憂慮すべき点は、高二酸化炭素環境に長時間曝露されていると、細菌増殖が促進されることである。高二酸化炭素環境曝露群の個体の方が肺内の細菌量が多かったことが、その裏付けである(fig. 4C)。以上のような事象が引き起こされる機序には、好中球機能の低下が関与しているものと考えられる。なぜなら、高二酸化炭素環境曝露群のラットの好中球は、貪食能が低下していることが明らかにされているからである(fig. 4D)。実際の臨床例では、適切な抗菌薬治療が行われれば、HCAにしていても肺傷害や細菌増殖はnormocapniaの場合と同程度になり、高二酸化炭素血症による有害作用をなくすことができる。

遷延した肺炎においてHCAが悪影響を及ぼす一因は、好中球貪食能の低下である。反対に、まだ遷延していない急性期の肺炎では、HCAは好中球機能をそれほど低下させないようである。そして、遷延した肺炎でも適切な抗菌薬治療さえ行えば、HCAの悪影響を抑止することができる。しかし、ここまで紹介した知見を踏まえると、肺炎のある重症患者を高二酸化炭素血症に長時間曝露するのは、安全性に問題があるのではないかと思われる。

教訓 肺炎初期や肺炎が完成した症例では、HCAは肺傷害に対する保護作用を発揮する可能性があります。しかし、肺炎が遷延してしまうとHCAは肺傷害を増悪させます。ただし、適切な抗菌薬治療を行えばこの悪影響を防ぐことができます。
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