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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス① [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

ARDSは重症疾患である。年間数千もの人を死に至らしめ、重病人を相当数増やし、ただでさえ膨大な額にのぼる医療費をさらに押し上げる大きな要因となっている。ガス交換を維持し救命するためには人工呼吸が必要である。しかし、人工呼吸を行うと、まだ機能が温存されていて一回換気量がすべてのしかかる一部の肺組織が繰り返し過膨張させられると、肺の障害を新たに引き起こしたり、悪化させたりするおそれがある。人工呼吸が急性肺傷害(ALI)を引き起こす機序の解明は、飛躍的に進んできた。なかでも、肺胞の伸展を防ぐ設定で人工呼吸を行うとALI/ARDSの生存率が改善する、というのが重要な知見である。この「保護的」な人工呼吸法では、一回換気量と気道内圧を下げることが主眼に置かれる。多くの場合、ある程度の高二酸化炭素血症を伴う(PaCO2>45mmHg)。これ「高二酸化炭素血症の許容(permissive hypercapnia)」と言い、重症喘息患者の肺傷害を軽減できるという報告に端を発する考え方である。肺の伸展を抑えることによって生存率が改善することがはっきりしたため、臨床の現場でも高二酸化炭素血症についての概念が大きく変わった。つまり、回避から許容へと変化したのである。肺の伸展を抑えることの効果が認識されるに従い、高二酸化炭素血症の許容が広がりを見せた。高二酸化炭素血症急性期にはアシドーシスが発生する。これを高二酸化炭素血症性アシドーシス(HCA)と呼ぶ。急性期を過ぎると、時間が経つにつれ腎臓の緩衝作用がはたらきHCAは代償される。臨床研究で得られたエビデンスによれば、HCAは安全であり有害作用もないことが示されている。さらに、ARDSnetが行った一回換気量に関する研究では、高一回換気量群のうち、無作為化割り当ての時点でHCAを呈していた患者はHCAのなかった患者より生存率が高いという結果が得られている。こうして、高二酸化炭素血症は、重症患者に対する現代の人工呼吸法における鍵となる概念の一つとなったのである。

以上に挙げた臨床研究の進展と軌を一にし、実験研究でもエビデンスが蓄積されている。人工呼吸回路の吸気側蛇管に二酸化炭素を吹送しHCAを誘起すると、一回換気量の多寡とは関係なく、様々な臨床状況を模した肺傷害モデルにおいて直接的な肺保護作用を得ることができる可能性があることが示されている。HCAによって軽減されることが示されているのは、フリーラジカル、肺の虚血再潅流、全身の虚血再潅流、肺内エンドトキシン投与および肺の過伸展によって生じたALIである。HCAがもたらす肺保護作用は、二酸化炭素による抗炎症作用(好中球の機能を減弱させる)、酸化性物質(オキシダント)による組織障害の緩和、そしてTNF-α、IL-1、IL-8などの炎症促進性サイトカインの減少といったはたらきが寄与しているものと考えられている。HCAの人為的な誘発が重症患者に対し治療効果あげるかどうかは、よく分かっていない。

重症患者における高二酸化炭素血症と敗血症

重症敗血症は、その原因が肺の感染であれ全身性の感染であれ、多臓器不全を伴い、重症患者の死因の第一位を占めている。米国における敗血症に起因する重症疾患の発生率は、10万人年あたり150例である。重症敗血症患者のうちおよそ40%にARDSが発症し、敗血症に起因するARDSの発生率は10万人年あたり45-63例と推計されている。さらに、敗血症以外の重症患者でも感染が合併することが多く、44%以上に感染が発生することが明らかにされている。ICUで発生する院内感染の三分の二を、肺炎および下部気道感染症が占めている。敗血症からARDSが続発すると、死亡率は非常に高くなる。

最近になり、敗血症の全経過中における高二酸化炭素血症and/orアシドーシスの安全性について疑義が呈されるようになってきた。HCAによる強力な抗炎症作用は、敗血症以外の原因による肺もしくはその他の臓器障害モデルで示されたものである。感染に対する有効な宿主反応が機能するためには、免疫能が正常でなければならない。高二酸化炭素血症and/orアシドーシスは複数の機序を介して、宿主と細菌の相互作用を変化させる可能性がある。HCAは微生物を殺すことにつながる多くの事象を広く根本から抑制するため、細菌の広がりと増殖を助けることになり、宿主にとって有害となる可能性がある。さらに、HCAは細胞膜伸展による細胞傷害や肺胞上皮の傷害の修復を妨げることが最近になって明らかにされ、HCAによって肺から血流への細菌の侵入を防ぐ障壁が弱体化される可能性に一段と憂慮が投げかけられる事態になっている。

教訓 HCAは細菌の広がりと増殖を助けたり、肺から血流への細菌の侵入を防ぐ障壁を弱体化させる可能性があります。
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