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大量輸血の新展開⑥ [critical care]

Massive Transfusion New Insights

CHEST 2009年12月号より

大量輸血プロトコル

大規模外傷センターでは重症出血性ショックの治療にあたり、各施設で定めた大量輸血プロトコルが発動されるのが長年の慣例となっている。以前は、大量輸血プロトコルで払い出されるのは赤血球濃厚液のみであり、FFPや血小板製剤などの成分製剤が必要なときはその都度依頼しなければならなかった。また、希釈性または消費性凝固能障害および血小板数低下が検査結果で確認されるまでは、FFPや血小板製剤を投与すべきではないとされていた。現在の大量輸血プロトコルでは、凝固能障害と血小板減少の予防に重点が置かれている。

現在、大量輸血時には赤血球濃厚液、新鮮凍結血漿および血小板濃厚液を1:1:1の比率で投与する成分輸血法が全血輸血に近い生理的な組成であるとして推奨されている。この方法(hemostatic resuscitation[止血重視輸血法]と呼ばれている)では、凝固能障害を早急に是正することが最優先される。凝固能障害の是正により出血が早く制御されれば、生存率が改善するであろうという考えに基づいた方法である。

「外傷大量出血プロトコル」(RCC 10単位+FFP 4単位+PC 2単位からなる規定の初回セットが即座に払い出され、以降は中止指示が出されるまでRCC 6単位+FFP 4単位+PC 2単位の規定セットが次々に払い出される。)という制度が運用されている施設において、プロトコル導入前に大量輸血(24時間で赤血球濃厚液を10単位以上投与)が実施された患者コホートとの比較が行われた。多変量回帰分析の結果、外傷大量出血プロトコル運用開始後は死亡率が74%低下し(p=0.001)、血液製剤の総使用量も有意に減少したことが明らかになった。また、多臓器不全、感染性合併症および人工呼吸器使用日数の減少と、腹部コンパートメント症候群(ACS)の激減という効果も認められた。

大量輸血を要し凝固能障害が認められ早急に出血を制御しなければ死亡に至ると考えられる場合に、止血機能を改善するために「輸血パッケージ」(RCC 5単位+FFP 5単位+PC 2単位)を払い出す制度を導入している施設がある。この施設からの報告によると、彼らの定義である「不適切な輸血療法」が行われている症例が10%以上を占め、生存例は死亡例よりも血小板数が多かった。そこで、この施設では凝固能障害の診断と治療の指標とするために、凝固線溶系の検査機器(TEG;Hemoscope Corp; Niles, IL)が使用されるようになった。その結果、不適切な輸血療法が行われる症例は3%未満に減少した。腹部大動脈瘤破裂の緊急手術中に輸血パッケージが使用された症例では使用されなかった症例より、術後輸血量が少なく、30日後生存率が高かった(66% vs 44%)。TEGの使用によって、97%の精度で外科的要因による術後出血を同定することができた。大量輸血が行われた外傷患者の10%では大出血の原因が線溶亢進であり、45%は凝固能亢進状態であることが、TEGの所見から明らかにされた。「輸血パッケージ」の導入とTEGの使用という先進的な取り組みによって輸血療法の質が向上し、大量輸血患者の生存率が有意に上昇した。さらに、早期からバランスのとれた輸血療法を行うことによって、大量出血患者の止血機能が維持されることがTEGの所見から確認された。

教訓 大量輸血が行われた外傷患者の10%では線溶亢進であり、45%は凝固能亢進状態であることや、早期からバランスのとれた輸血療法を行うことによって、大量出血患者の止血機能が維持されることがTEGの所見から明らかにされています。
コメント(2) 

コメント 2

ぶりぶり

おひさしぶりです。
血液製剤の使用指針(平成17年9月制定、平成21年2月一部改正)には
第60ページ、第10~11行目に
循環血液量以上の出血が起きても、新鮮凍結血漿を出血傾向予防のために投与することの有用性は否定されている。
と書いてありますが、引用文献としてFresh Frozen Plasma: Indications and Risks JAMA 1985;253:551-3がその根拠として示されています。
ところが私がこの文献を読んでも、使用指針にあるような記載は見られません。
Massive Blood Transfusion (>1 Blood Volume Within Several Hours)の項に、There is no evidence that the prophylactic administration of FFP decreases transfusion requirements in multiply transfused patients who do not have documented coagulation defects.とあり、使用指針の記載と似ているようには感じられますが、原文を忠実に訳すと「凝固能障害が明らかではない患者に複数単位の輸血を行う場合、FFPを予防的に投与すると輸血量が減ることを裏付けるエビデンスはない。」となります。ちなみに、エビデンスがない、ということは「有用性が否定されている」こととは異なります。

これは厚生労働省が発行している指針であるのですが、このような(意図的な?)引用間違いもしくは読者がそこまで読み込まないだろうと高をくくって、ろくに原文を読み込みもせず適当に引用したのかわかりませんが、日本の政府機関も随分杜撰なことをするものです。
ただ原発事故以降の政府の対応をみていると、然もありなんの感はぬぐえませんが、まことに日本人として残念なことです。

by ぶりぶり (2011-10-13 15:18) 

vril

お元気そうで何よりです。名刀のように鋭いコメントをいただき、ありがとうございます。早速、JAMAの論文を読んでみました。「循環血液量以上の出血が起きても、新鮮凍結血漿を出血傾向予防のために投与することの有用性は否定されている。」という指針の記載と合致するような部分は、この論文のどこにも見当たりませんね。

ぶりぶり先生がご指摘になった原論文の文章は、指針の記載となんとなく似ていますが、根本的な意味は全然違いますね。できの悪い高校生の英文解釈、というよりは、何らかの意図に沿って引用文献を歪曲したでっちあげのように感じられます。悪意があると言ってもよいのではないでしょうか。

どんな意図があるのかは、指針の全体像からなんとなく推量できる気がします。事実やエビデンスに忠実であることより、予め決められた落としどころを実現することが優先したのでしょう。しかし、文献の不正確な引用は厳に慎むべきですし、指針を作成する際に是正されなかったのだとすれば組織ぐるみと言われても仕方ないかもしれません。指針の作成に関わるほどの地位に到達するような立派な先生方は、空気を読んで空気に没入し空気の醸成・強化に邁進する能力が高いですからね~。脱帽です。
by vril (2011-10-14 08:37) 

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