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大量輸血の新展開③ [critical care]

Massive Transfusion New Insights

CHEST 2009年12月号より

大量輸血と蘇生に関する近年の進歩

止血機能の維持
近時発表された研究の著者らは揃って、重症外傷患者の大多数は、病院到着時つまり治療開始前にすでに凝固能障害に陥っていること、そして、従来の大量輸血法では凝固能障害の是正に必要な治療を行っていることにはならないことを指摘している。出血は外傷による死亡の主因であり、凝固能障害は出血を助長する。そのため、外傷患者に対する大量輸血では「止血機能の維持(hemostatic resuscitation)」が不可欠であるという声が大きくなっている。凝固能障害を是正するのに有効なのは、体温の正常化、出血の制御、そして必要に応じたFFP・血小板およびクリオプレシピテートの投与である。重症外傷患者の凝固能障害を避けるもしくは是正する最善の方法は、全血と同程度以上に凝固因子や血小板を含む組成の輸血療法を行うことであるという意見が示されている。重症外傷で出血がまさに進行している状況において血液凝固を図る製剤(FFP、血小板、クリオプレシピテート)をどのように投与すれば最も効果を得られるか、という点について検討する無作為化比較対照試験を行うのは困難であるし、今までにもそれに類する研究は発表されていない。

出血中の希釈性凝固能障害を模した薬力学モデルを用いた研究では、外傷患者における希釈性凝固能障害を是正または予防するには全血と同等の組成の輸血療法を行う必要があることが明らかにされている。この薬力学モデルによると、凝固因子や血小板が激減し出血がどうにも止まらなくなってしまったら、赤血球濃厚液1単位につき、1~1.5単位のFFPを投与しなければ状況を打開することはできない。血漿中凝固因子濃度が正常値の50%未満になるより前にFFPの投与を開始し、その投与量を赤血球濃厚液(PRBC)と1:1の比率となるようにすれば、それ以上の希釈を防ぐことができるとされている。

Borgmanらは、米軍野戦病院において大量輸血(24時間以内に赤血球濃厚液10単位以上を投与)が行われた患者246名について後ろ向き研究を行い、FFP/PRBC比と死亡率の関係を検討した(Fig. 2)。いずれの投与比率群においても、ISS中央値は18点であった。FFP/PRBC低(1:8)、中(1:2.5)、高(1:1.4)の全死亡率はそれぞれ、65%、34%、19%であった(p<0.001)。出血による死亡率はそれぞれ、92.5%、78%、37%であった(p<0.001)。ロジスティック回帰分析を実施したところ、FFP/PRBC比と生存率のあいだに独立した相関関係があることが明らかになった(OR, 8.6; 95%CI, 2.1-35.2)。戦傷により大量輸血を要した患者においては、高いFFP/PRBC比(1:1.4)で輸血療法を行うと、出血死が減少し生存率が上昇した。この結果から、外傷により凝固能が低下している患者に対する大量輸血プロトコルでは、例外なくFFP/PRBC 1:1で輸血を実施することを銘記すべきであると結論づけられている。この研究における三つの患者コホートには、FFP/PRBC比以外にも以下のような有意な相違点があったことに注目したい。高FFP/PRBC群では他の群に比べ、遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子(rFⅦa)が投与された症例が多く、等張晶質液総投与量が少なく、クリオプレシピテートおよび血小板製剤の投与量が多かった(Table 3)。

この研究以降にも、野戦病院で重症外傷(爆破による負傷、銃傷、血管損傷)の治療が行われた患者16名を対象とした同様の研究が行われている(PRBC 23±18単位、FFP 16±12単位、クリオプレシピテート11±14単位、血小板製剤13±9単位)。負傷直後の出血性ショックの治療は全例で成功した。止血機能の維持を企図した治療(rFⅦa投与とヘパリン使用制限を含む)がすべての患者に行われた。rFⅦa投与例を含め、グラフト血栓症が発生した症例は皆無であった。ここで行われた血液製剤の大量投与、等張晶質液投与量削減、そしてrFⅦaの投与という止血機能維持療法は、転帰を有意に改善することが明らかにされた、重症出血性ショック患者の新しい治療法を具現化したものである。また、戦地では血液製剤の備蓄量が少ないため、戦傷者に対しては新鮮全血が必要になることもある。大出血症例に対する大量輸血における新鮮全血の効能については、貯蔵された成分製剤を用いた標準的な方法との比較評価が進行中である。

止血機能維持に留意した大量輸血法は、当初は戦傷者に対して行われていた。しかし、非戦闘地域における外傷患者においても広まりつつあり、現在ではこの治療法の概念は、その他の様々な原因で大量出血を来たし大量輸血を要する状況に陥った患者にも適用されるようになってきた。非戦闘地域における外傷患者を対象とした複数の臨床試験でも、止血機能維持を主眼においた治療法が取り上げられている。

教訓 大量出血症例では希釈性凝固能障害が発生すると、出血の制御が困難になります。凝固因子が正常値の50%未満に減少するより前にFFPの投与を開始し、その投与量を赤血球濃厚液(PRBC)と1:1の比率となるようにすれば、それ以上の希釈を防ぐことができることが数学的モデルを用いた研究で明らかにされています。イラクの野戦病院における戦傷者の治療でも、このことは裏付けられています。
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