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大量輸血の新展開① [critical care]

Massive Transfusion New Insights

CHEST 2009年12月号より

大量輸血については多くの定義が文献で示されている(Table 1)。一般的には、一人の患者に赤血球濃厚液(PRBC)を10単位以上もしくは24時間以内に循環血液量を超える量の輸血製剤を投与した場合が大量輸血に当たる(訳注;米国では1単位の血液製剤は全血450mLから製造される)。他にも時々刻々と移り変わる状況にあわせた大量輸血の定義も提唱されており、特に各施設における大量輸血プロトコル開始条件としてはこちらが用いられていることが多い。

疫学

理由が何であれ出血性ショックが発生すれば、大量輸血が必要性となる可能性がある。大半の施設では、大量輸血の理由として最も多いのは外傷である。続いて多いのは、消化管出血や予定もしくは緊急の複雑な手術(腹部大動脈瘤、肝移植など)による大量出血の治療である。大出血を来す他の原因には、心血管手術、子宮外妊娠、産科出血、分娩後出血などが挙げられる。米国、イングランド、オーストラリアおよびデンマークにおける血液製剤使用に関する調査によると、このうち2ヶ国では50単位以上の赤血球製剤使用症例についてのデータが収集されていた。一回の出血エピソードにつき50単位以上の赤血球製剤が使用された症例の出血原因は、オーストラリアでは大半が多発外傷であったが、デンマークでは消化管出血であった。

大量出血を要する患者を早めに同定することは、非常に重要である。血液製剤の供給に限りのある地域では、とりわけこの点に留意しなければならない。外傷領域では、大量輸血を要する危険因子が数多くの研究で明らかにされている。イラクの野戦病院2施設で行われた後ろ向き研究では、大量輸血が実施された患者247名に赤血球濃厚液17.9単位、新鮮凍結血漿2.0単位が投与されたのに対し、大量輸血が実施されなかった患者311名には赤血球濃厚液1.1単位、全血0.2単位が投与されたことが分かった(p<0.001)。大量輸血が行われた患者群の方が死亡率が有意に高かった(39% vs 1%)。大量輸血実施の独立予測因子は以下の通りであった:ヘモグロビン11g/dL以下、PT-INR>1.5および貫通創。イラクの野戦病院1施設における別の研究でも、大量輸血が行われた患者は、行われなかった患者と比べ死亡率が有意に高く(29% vs 7%)、負傷の程度が重篤であったことが示されている。この研究で明らかにされた大量輸血の独立危険因子は、心拍数>105bpm、収縮期血圧<110mmHg、pH<7.25およびヘマトクリット<32%である。

大量輸血の必要性を予測するための点数化診断基準がいくつか発表されているが、いずれも検査データ、外傷重症度スコア(ISS)、複雑な計算を要する。新しく提唱されたもっと簡便な点数化の方法(assessment of blood consumption[ABC] score; 以下の四つの項目を点数化したもの:貫通創、低血圧、頻脈および超音波検査による腹腔内出血の有無)は、非戦闘地域における大量輸血必要症例を正確に予測(感度75%、特異度86%)できることが明らかにされている。

治療の目的

急性出血および出血性ショックの治療にあたって最優先しなければならないことは、止血である。次に、といっても同時進行で取り組むのではあるが、輸血である。出血性ショックの治療の眼目は、循環血液量を速やかかつ適切に回復し、組織への酸素運搬を最大化することである。そして、輸血製剤および血液製剤投与の目標は、患者血液の凝固能、酸素運搬能、膠質浸透圧および生化学的組成を安全域に維持することである。つまり、赤血球濃厚液以外の血液製剤を投与し、希釈性凝固能障害や希釈性血小板減少症を防ぐ必要がある。

教訓 大量輸血予測の簡単なスコアリングシステムとして、assessment of blood consumption[ABC] scoreがあります。貫通創、低血圧、頻脈および超音波検査による腹腔内出血の有無の4因子について点数化したものです。非戦闘地域における大量輸血必要症例を正確に予測できることが明らかにされています。
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