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CDトキシンのモノクローナル抗体~考察 [critical care]

Treatment with Monoclonal Antibodies against Clostridium difficile Toxins

NEJM 2010年1月21日号より

考察

クロストリジウム・ディフィシル感染に対し、メトロニダゾールまたはバンコマイシンに加え、完全ヒトモノクローナル抗体を投与するとその経過が改善することが本研究で明らかにされた。クロストリジウム・ディフィシルトキシンAおよびトキシンBのそれぞれに対する2種のモノクローナル抗体(CDA1およびCDB1)を一度投与するだけで、標準的な抗菌薬治療が行われているクロストリジウム・ディフィシル感染患者の感染再発率が低下する。本研究では主要評価項目を再感染率とし、副次評価項目において初感染時のモノクローナル抗体の治療効果を検討した。下痢が消失するまでの日数、初感染時の入院日数、初感染時の下痢の重症度については、モノクローナル抗体群とプラセボ群のあいだに差は認められなかった。CDA1とCDB1は完全ヒト抗体であり、いずれも外因性抗原を標的として作用する。研究期間中に免疫原性を呈した患者は皆無であった。

今回実施した第2相試験で得られた知見は、さらに大規模な研究を行い改めて検討する必要がある。先行する諸研究と同じく本研究でも、抗トキシン抗体の血中濃度がクロストリジウム・ディフィシル感染予防効果と比例していることが分かった。また、動物モデルを用いた研究で得られたデータと同様に、トキシンAとトキシンBに対する抗体を混合投与しても中和抗体としての効果が維持されることが本研究でも確認された。クロストリジウム・ディフィシル感染ハムスターモデルを用いた最近の研究では、トキシンBが病原性を担っていて、トキシンAは病原性には関与していない可能性があることが示されているが、ヒトのクロストリジウム・ディフィシル感染では、トキシンAとBに対する高親和性抗体を両方とも投与する治療法が有効であると考えられる。本研究におけるCDA1およびCDB1の投与量は、動物モデルで効果を得るのに要した投与量とヒトにおける薬力学データに基づいて決定した。

モノクローナル抗体投与群における感染再発例はいずれも、研究登録時点にはすでに入院していた症例であった。登録時にすでに入院していた患者は、登録時にはまだ入院していなかった患者(外来患者)と比べ、高齢で基礎疾患の重症度が高かった。この二つの要素は、再発リスクの上昇と関連していることが明らかにされている。CDA1-CDB1治療を行ったにもかかわらずクロストリジウム・ディフィシル感染が再発した7名の患者における抗トキシン抗体の血中濃度は、モノクローナル抗体治療を行い感染再発が見られなかった患者の抗トキシン抗体血中濃度と比べ、低かったわけではない。モノクローナル抗体を投与しトキシン中和抗体の血中濃度が高くなったにも関わらず、クロストリジウム・ディフィシル感染が再発した理由は不明であるが、おそらく局所またはその他全身性の宿主免疫機構の失調が関与しているものと考えられる。また、中和抗体の血中濃度が高くても、腸粘膜における濃度が必ずしも十分なレベルに達しているとは言えない。CDA1-CDB1の投与量をもっと増やせばもっと転帰を改善することができるかもしれないが、本研究では72%もの再発率低下という大きな効果量が得られているので、今回と同じ投与量で今後の研究も行えばよい。

抗菌薬治療とともに、ヒトモノクローナル抗体CDA1およびCDB1を混合投与したところ、クロストリジウム・ディフィシル感染の再発率が有意に低下した。この治療法はモノクローナル抗体の静注を一回行うだけなので、患者が薬を内服することができるかできないかに左右されないという利点もある。全世界的なクロストリジウム・ディフィシル感染の増加と重症化という状況を鑑みると、クロストリジウム・ディフィシル感染の重症化を防ぎ、医療負担を軽減する手段として、モノクローナル抗体を用いたこの新しい治療法の研究をさらに進めることが望まれる。

関連記事:クロストリジウム・ディフィシル~再発例の治療

教訓 クロストリジウム・ディフィシルトキシンAとBに対するモノクローナル抗体を投与したところ、再発率が72%低下します。ただし、最初の感染時の重症度はプラセボと変わりません。
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