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術後疼痛管理を洗練する① [anesthesiology]

Improving Postoperative Pain Management: What Are the Unresolved Issues?

Anesthesiology 2010年1月号より

近年、急性痛の生理の解明が進み、新しいオピオイドおよび非オピオイド鎮痛薬や薬物送達システム(drug delivery system)が開発され、術後疼痛の少ない低侵襲手術が広く行われるようになってきたが、術後痛は依然として解決されていない課題である。米国および欧州で行われた最近の調査では、術後疼痛管理は現在も十分な質が確保されるのは至っておらず、さらに改善を重ねる必要があるということが強調されている。標準化された疼痛評価法および疼痛管理法の導入や多角的鎮痛法の実施が広まっているという喜ばしい現状を鑑みると、今後多年にわたり疼痛管理が改善を遂げ続けるものと期待される。それでは、術後急性痛の管理に関して、いまだ解明されていない課題の主なものは何であろうか?そして、エビデンスに基づいた術後疼痛管理はどうあるべきなのであろうか?

多角的鎮痛 (multimodal analgesia)

「オピオイド使用量節減」多角的鎮痛法(いわゆるバランス鎮痛法)の概念は15年以上前に登場した。その目的は、相加または相乗効果のある鎮痛薬を組み合わせて使い、鎮痛の質を向上させることである。種類の違う鎮痛薬を組み合わせて周術期疼痛管理を行えば、それぞれの薬の作用機序や副作用が異なるため、理論上は疼痛管理の安全性と有効性が向上するはずである。鎮痛の質とオピオイドによる副作用について多角的鎮痛法と単剤による鎮痛法を比較した質の高いRCTは数少ない。だが、非オピオイド鎮痛薬単剤による鎮痛法についてのメタ分析では、オピオイドを使用しないことによってPONVや鎮静の発生率が有意に(20-40%)低下することが明らかにされている。しかし、その他の主な副作用(便秘、尿閉、呼吸抑制など)の減少や体動時痛の緩和が、多角的鎮痛法によってどれほど得られるのかについての報告は少ない。術後に鎮痛薬を多剤併用する際に見られる、各系統の薬剤に特異的な副作用についての、大規模臨床研究が必要であることは言を俟たない。オピオイドによる副作用(PONV、尿閉、イレウス、便秘、鎮静、呼吸抑制など)は、すでに詳しく取り上げられてきているが、アセトアミノフェン、NSAIDs(非選択的NSAIDおよびCOX-2阻害薬)、ケタミンおよびガバペンチンなどの非オピオイド鎮痛薬にも各剤特有の副作用(肝毒性、腎毒性、血小板機能障害、混迷、鎮静、めまいなど)があり、多角的鎮痛法の一翼として術後に投与された場合、副作用が増強される可能性がある。したがって、鎮痛薬を多剤併用する方法の利害得失は、主に術式によって決定される(つまり、扁摘後であれば再出血、血管手術後であれば腎不全、結腸手術後であればイレウスが懸念されるので、それを踏まえて薬剤を選択する)。

多角的鎮痛法の有効性を支持するエビデンスが現在までに蓄積されているが、大規模調査によると、実際に臨床で多角的鎮痛法が実施されている例は多くはない。周術期の疼痛管理を改善させるのに必要なのは、まず、非オピオイド鎮痛薬(具体的には、NSAIDs、COX-2阻害薬、アセトアミノフェン、ガバペンチン、ケタミン、局所/区域麻酔法)のいずれかに、必要に応じてオピオイドを投与する方法についてのエビデンスを実行することである。次に、理に適った組み合わせの鎮痛薬を用い、オピオイドによる副作用を防がなければならない。そうすれば、早期転帰が改善され、日常生活における通常の活動(離床、消化管機能の回復、職場復帰など)をより迅速に再開することができるはずである。ただし、過去に発表された周術期疼痛管理についてのガイドラインでは、各術式に特異的な問題については配慮されていないことに留意しなければならない。たとえば、術式によって(例;整形、腹部、胸部、内視鏡手術)、術後痛の特徴も臨床的な影響(ベッド上安静、麻痺性イレウス、尿閉、呼吸機能低下など)も異なる。したがって、術式に応じた方法をとることが、強く求められるのである。例えば、持続硬膜外鎮痛行うと他の鎮痛法と比べ、腹部大手術後の体動時痛、イレウス、PONVの発生率が低い。しかし、大手術ではない腹部手術の多くには、硬膜外鎮痛法は適さない(例;腹式子宮全摘術、腹腔鏡下結腸切除術、腹腔鏡下副腎摘出術、腹腔鏡下腎摘出術)。さらに、術式によって、発生しやすい各鎮痛薬または鎮痛法の副作用が異なるであろう(例;耳鼻科、股関節、形成外科手術後に非選択的NSAIDs[COX-2阻害薬は含まない]を用いると出血、開胸術後に主としてオピオイドを用いる鎮痛法を行うと呼吸抑制[区域麻酔法ならば呼吸抑制は起こりにくい]、結腸切除後にオピオイドを用いると術後イレウス)。したがって、最適な多角的疼痛管理の実現には、各術式の特性に配慮したエビデンスを踏まえる必要がある(table 1)。近年、整形外科、腹部外科、胸部外科領域の一般的な術式における術後疼痛管理についての最新のエビデンスがPROSPECTというウェブサイト上で公開されている。また、術後疼痛管理についての新しいレビューも発表されている。

教訓 術後鎮痛は術式に応じて内容を決めなければなりません。扁摘後であれば再出血、血管手術後であれば腎不全、結腸手術後であればイレウスが懸念されるので、それを踏まえて薬剤を選択します。


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