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周術期脳血管障害とβ遮断薬④ [anesthesiology]

Perioperative Strokes and [beta]-Blockade

Anesthesiology 2009年11月号より

β遮断薬と脳血管障害に関わるその他の影響

Lemaitreらは、β受容体遺伝子の多様性が、β遮断薬による心筋梗塞および虚血性脳血管障害リスク変動に与える影響について研究を行った。β1受容体遺伝子のいくつかの遺伝子型では、β遮断薬使用によって心筋梗塞および虚血性脳血管障害の双方のリスクが上昇することが分かった。β遮断薬を使用による心筋梗塞および虚血性脳血管障害の複合リスクは、通常の対立遺伝子を持つ者(OR 0.70, 95%CI 0.51-0.94)と比べ、rs#2429511を保有する者(OR 1.24, 95%CI 1.03-1.50)の方が高い。β受容体遺伝子の二つの主な単一塩基多型(Ser49GlyおよびArg389Gly)があると、β遮断薬の作用に変化が認められることが複数の研究で明らかにされている。以上のような多型性が周術期に及ぼす影響は、今はまだ明らかにされていない。

周術期の急性貧血が脳損傷と関連していることは、多くの臨床研究で報告されている。最近行われた二編の観測研究では、心臓手術を受ける術前のヘモグロビン値が12g/dLを下回ると、脳血管障害を含む心血管系有害事象の発生率が上昇するという結果が示されている。Weiskopfらが行った健常ボランティアを対象とした研究では、血管内容量を保ちながら急性貧血にすると中枢神経系の情報処理能力と認知機能が低下することが明らかにされた。急性貧血に加え、手術侵襲、心血管系の代償性反射を妨げる薬剤(例, β遮断薬)、不安定な血行動態、心血管系の基礎疾患および高齢といった危険因子が存在すれば、周術期における脳傷害のリスクはさらに上昇する可能性がある。心血管系合併症のリスクがありβ遮断薬の術前投与の適応があると考えられる患者が、周術期に等容量性血液希釈に陥った場合の脳血管障害のリスクについては、まだ十分な研究が行われていない。

β遮断薬はインスリンの分泌を阻害するとともにインスリン耐性を引き起こすため、ブドウ糖代謝が変化する。インスリン耐性は、メタボリック症候群の発症原因となる主な生理学的変化の一つである。Galassiらが行ったメタ分析によると、メタボリック症候群のある者は、心血管系疾患のリスクが健常者と比べ61%増大する。β遮断薬の受容体選択性によって、血糖値上昇だけでなく体重増加や高脂血症といった代謝に与える悪影響の程度は左右される。非選択性のβ遮断薬を投与したり、β1選択性のβ遮断薬を大量投与したりすると、強い代謝性副作用が現れる。β遮断薬投与によるインスリン感受性低下の機序は、まだ完全には解明されていないが、いくつかの要因の関与が指摘されている。高血圧患者ではインスリンのクリアランスが低下することが分かっているが、β遮断薬を投与するとさらに低下するようである。血漿中のインスリンが増え高インスリン血症になると、インスリン受容体に対するダウンレギュレーションが起こり、インスリン感受性が低下する。

まとめ

非心臓手術を受ける患者に高用量β遮断薬を予防投与すると、心臓関連合併症は減るが、脳血管障害および死亡率は増える。だが、β遮断薬の予防投与を少量から開始し手術までに漸増すれば、脳血管障害のリスクはβ遮断薬非使用例と同等にとどまり、かつ、心保護効果は損なわれないと考えられる。β遮断薬の予防投与が行われている症例では、術中の厳重な血行動態管理が不可欠である。以上に関連し、手術の数週間前にβ遮断薬の投与を少量から開始する方法の効果を確認したり、周術期心臓合併症の高いリスク患者が手術当日朝に至るまでβ遮断薬を投与されていない場合の最適な対処法を明らかにしたりするために、大規模試験の実施が望まれる。

β遮断薬を長期内服している患者に対しては、周術期もβ遮断薬の投与を継続すべきである。冠動脈疾患の確定診断がついている症例では、手術のかなり前からβ遮断薬を開始し血行動態の変化をしっかり評価しなければならない。低血圧と徐脈を避けることが要点であるため、β1受容体選択性の高いβ遮断薬を少量投与するのが妥当である。

教訓 β遮断薬の予防投与が行われている症例では、術中の厳重な血行動態管理が不可欠です。
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