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術中低血圧と一年後死亡率~考察① [anesthesiology]

Intraoperative Hypotension and 1-Year Mortality after Noncardiac Surgery

Anesthesiology 2009年12月号より

考察

今回実施した観察研究では、術中低血圧持続時間と、一般外科または血管外科術後一年以内の死亡リスクの関連を検証した。解析には、広く用いられている複数のIOHの定義を用いた。術後一年以内に死亡した患者は、1705名中88名(5.2%)であった。

回帰分析を行ったところ、収縮期血圧80mmHg未満、平均血圧60mmHg未満、もしくは収縮期血圧か平均血圧が基準時点より40-45%低下の場合に、手術一年後の死亡リスクが高くなる傾向が認められた(fig. 2)。非常に高度の低血圧が認められた症例では、ハザード比が低下し1に近づいたり、さらには1を下回ったりするという予期せぬ結果が得られたが、これは非常に高度の低血圧に陥った患者の数が極めて少なかったことに起因するものと判断される。Figure 2に示したとおり信頼区間が広いことからも、これらの値が信頼性に欠けることが分かる。したがって、このような結果をもとに許容可能な低血圧閾値についての結論を得ることはできない。

CART分析では、IOHの平均血圧閾値を50~75mmHgに定義し、IOH持続時間をツリーの中に組み込んだ。この平均血圧閾値の範囲内では、閾値が低い(50mmHgに近い値を閾値として設定する)とIOH持続時間が短くても1年後死亡率が上昇することが分かった。一方、閾値がこの範囲内でも高い方に設定されていると、より長い時間の低血圧に耐えられることが明らかになった。この種の解析では、明るみに出ていない何らかの交絡因子が関与している可能性を排除できないため、因果関係を明らかにすることはできない。しかし、以上の結果から、高齢患者では、低血圧が高度になるにつれ、より短い時間しか許容できない、という広く共有されている臨床知が裏付けられるだろう。

本研究にはいくつかの制約がある。第一に、観察研究であったため交絡因子の調整が必要であったことが挙げられる。観測変数の調整には多変量回帰分析が適している。回帰モデルには、IOHおよび死亡率に関連するすべての変数を組み込んだ。さらに、本研究ではCART分析も行った。残念ながら、CART分析のような手法では、解析担当者が交絡因子を自由にツリーに組み入れることはできないし、交絡因子が残りやすい。とはいうものの、この方法は(交絡が問題とならないのであれば)、1年後死亡の予測因子を単純に表すのに大きな威力を発揮する。

第二に、多重検定の問題を考慮しなければならない。いくつもの血圧閾値と持続時間についてハザード比を算出した。単回の検定では、帰無仮説が誤って棄却される確率は、たいていの場合5%とされる。したがって、本研究に当てはめると、検定を平均20回繰り返すと、そのうち一回はIOHと死亡率に統計学的に有意な相関があるという誤った結果が得られるということになる。しかし、48通りのIOH定義のうち1年後死亡率との相関が認められたものは皆無であり、多重検定のために補正を行っても意味があるとは言えない。交絡因子のハザード比も、定義によって値が変化する。つまり、ハザード比、信頼区間およびP値の解釈にあたっては慎重を期さねばならないということである。信頼区間が広すぎて統計学的に有意な結果を導くことはできないが、以上の問題点を踏まえると、それでもまだ得られた信頼区間は狭すぎるのかもしれない。

第三の問題点は、鎮静時間である。Monkらは深い鎮静状態にあった時間が長いと1年後死亡率が上昇することを明らかにした。Lindholmらもこの相関を確認し、先頃報告した。したがって、深い鎮静状態であった時間の長さも交絡因子であると考えなければならない。しかし、本研究の対象患者ではBISモニターやエントロピーモジュールに代表されるような、麻酔深度に関する情報をもたらす脳波モニターのルーチーン使用は行わなかった。したがってその代わりに、プロポフォールについては効果部位濃度曲線の曲線下面積、吸入麻酔薬については吸気吸入麻酔薬濃度曲線の曲線下面積を算出し、麻酔深度の指標とした。吸入麻酔薬については、正しくは呼気終末吸入麻酔薬濃度を用いるべきであったが、麻酔記録保存システム上では吸気吸入麻酔薬濃度しか記録されていなかった。このことが有意なバイアスを生じたとは考えられない。イソフルランやセボフルランのような現代の吸入麻酔薬は、吸気濃度と濃き濃度は速やかに平衡するからである。さらに、低血圧を呈した患者では、低血圧を来さなかった患者と比べ、吸入麻酔薬総使用量が有意に多かったが(table 1)、プロポフォールではこのような差は認められなかった。即ち、吸入麻酔薬投与量が偶発的に多すぎてしまい、低血圧を起こしたのではないかと考えられる。このように観察研究では、交絡因子が患者群によって異なることがあるが、たいていは偶発的に生ずる違いに過ぎない。この差については、多変量解析の際に調整した。

教訓 低血圧が高度であるほど、持続時間が短くても、一年後死亡率が上昇します。
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