SSブログ

2009年を振り返って③ [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

Thiele RH, Pouratian N, Zuo Z, Scalzo DC, Dobbs HA, Dumont AS, Kassell NF, Nemergut EC: Strict glucose control does not affect mortality after aneurysmal subarachnoid hemorrhage. Anesthesiology 2009; 110:603-10; and Bilotta F, Caramia R, Paoloni FP, Delfini R, Rosa G: Safety and efficacy of intensive insulin therapy in critical neurosurgical patients. Anesthesiology 2009; 110:611-9
1980年代初頭、高血糖によって中枢神経の急性傷害が大幅に増悪するという実験結果の報告が相次いだ。この現象は数多くの動物で確認されている。麻酔科領域ではこの知見が急速に広まり、術中輸液では原則的にブドウ糖を含む製剤を使用しないようになった。次いで、脳血管障害、心停止および外傷性脳損傷の転帰と高血糖の関連についての研究が、ヒトを対象として行われた。ほぼすべての研究において、高血糖があると転帰が悪化するという強い相関が認められた。現在に至っても、この相関の正確な機序はよく分かっていないが、酸素が欠乏し、そこにブドウ糖が存在するとブドウ糖の嫌気性代謝がはじまり、細胞内アシドーシスが増強する、という意見が優勢である。ラットを使ったその後の研究で、インスリンを用いて血糖管理を行うと、高血糖による有害作用を軽減できることが明らかにされた。中枢神経傷害に関する高血糖の問題とは別に、ICU患者では厳格な血糖管理により転帰が改善することが示されている。厳格な血糖管理による転帰改善という結果を再現するのは困難であることが報告されているとは言うものの、中枢神経傷害が高血糖により増悪する危険性が高い可能性のある、脳神経外科患者や重症神経疾患患者の治療を行う際にも、厳重な血糖管理を行うのが妥当であるように思われる。

Theileらの論文およびBilottaらの論文は、神経集中治療領域における血糖管理に重要な教訓を示すものである。Theileらは、1995年から2007年に発生した脳動脈瘤破裂によるクモ膜下出血症例834名のカルテを収集し検討した。2002年以降、入院時から退院に至るまで、血糖値の目標値を90-120mg/dLとする厳格な血糖値管理が行われていた。厳格血糖管理が行われる前後の転帰が比較された。高血糖の発生率を減らすには、厳格血糖管理は有効であった。しかし、院内死亡率には何の影響も及ぼしていなかった。その原因の少なくとも一つは、厳格血糖管理群で低血糖の発生率が上昇したことであった(table 1)。低血糖の発生は、死亡リスクの上昇と関連していた。

Bilottaらは脳神経外科手術後にICUに入室した483名を対象に前向き無作為化比較対照試験を行い、厳格血糖管理群(79-110mg/dL)と従来血糖管理群を比較した。重大な低血糖の発生率は、厳格管理群では従来管理群の三倍にのぼった。血糖値を管理するとICU滞在期間が短縮し感染発生率が低下するが、6ヶ月後のグラスゴー転帰尺度や死亡率については差は認められなかった。以上二編のいずれにも問題点はあるが、この二つの研究によって、神経集中治療における血糖管理の役割についての理解を大きく深化させることができた。厳格血糖管理のプロトコルを導入すると平均血糖値を低下させることはできるが、その低下幅はさほどでもない。それと同時に、低血糖の発生率が従来管理のときよりも高く、どうやらこのことが脳損傷を悪化させるようである。ICU滞在中に厳格な血糖管理を行うと、危険性が効能を凌駕することがすでに明らかにされている。脳に損傷のある患者を管理するにあたっては、この点に留意しなければならない。血糖目標値をもう少し高く設定すれば、また違った結果が得られるかもしれない。大半の実験では、虚血性/外傷性脳損傷の増悪を引き起こす血糖値の閾値はおよそ180mg/dLであることが示されている。

Santoni BG, Hindman BJ, Puttlitz CM, Weeks JB, Johnson N, Maktabi MA, Todd MM: Manual in-line stabilization increases pressures applied by the laryngoscope blade during direct laryngoscopy and orotracheal intubation. Anesthesiology 2009; 110:24-31
頸椎不安定症が判明しているもしくは疑われる患者の喉頭鏡操作およびその他の挿管手技に際し、頸椎傷害を防ぐため用手正中固定(manual in-line stabilization; MILS)を行うことが勧められている。しかし、用手正中固定を行うと、喉頭展開時の視野が悪くなり、気管挿管に要する時間が長引き、場合によっては低酸素血症を引き起こす可能性がある。そのため最近になって、用手正中固定の臨床的位置付けが見直されている。本論文の研究グループは、頸椎損傷死体モデルを用いて用手正中固定をしながら喉頭展開を行うと、不安定な頸椎の部分に有意な亜脱臼が発生することを過去に報告した。Santoniらは以前に行ったこの研究を発展させ、喉頭展開時の用手正中固定に難点があることを裏付ける新しいエビデンスを本研究で示した。先進技術を応用し、喉頭展開時に喉頭鏡ブレードの各点に加わる力の分布を測定したところ、用手正中固定しながら喉頭展開すると、用手正中固定を行わないときと比較し2倍の大きさの力が加わり、大きな力がかかるわりには、声門の視認性が低下し挿管失敗率が上昇するということが明らかになった。本論文の著者らは、頸椎不安定症のある患者において用手正中固定を行うと、喉頭鏡に加わる力が大きくなるとともに、声門の視認性が低下するため、頸椎運動制限がかえって増悪する可能性があると結論づけている。この研究グループだけでなく、他のグループの研究結果からも、喉頭展開時の用手正中固定の有効性に疑義が呈されている。

教訓 高血糖による悪影響を排すとともに低血糖に足を掬われないためには、血糖値の目標値を180mg/dLぐらいにするのがよさそうです。喉頭展開時に頸椎を保護するために用手正中固定を行うと、かえって頸椎の障害を悪化させる可能性があります。

コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。