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2009年を振り返って② [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

Alkire MT, Asher CD, Franciscus AM, Hahn EL: Thalamic microinfusion of antibody to a voltage-gated potassium channel restores consciousness during anesthesia. Anesthesiology 2009; 110:766-73
麻酔による意識消失の神経学的機序の知見はこれまでに相当蓄積されてきた。最近では、大脳皮質における麻酔の主な作用部位も明らかにされつつある。視床は感覚を伝える上行性伝導路と大脳から下行する運動伝導路の主要な中継点である。本論文の著者らは以前、視床の正中中心核のコリン作働性ニューロンを刺激すると、セボフルランによる立ち直り反射の消失を、受容体特異的かつ部位特異的に拮抗することができることを明らかにした。そして著者らは、視床のアセチルコリン受容体にはスイッチを入れるようにして覚醒を調節する働きがあり、麻酔はこのスイッチを消すことによって意識を消失させるという結論に至った。

本研究を行ったAlkireらはさらに、視床の構造が麻酔状態を作り出すのに関与していることを示した。ニコチンはカリウムチャネルを阻害することが知られている。これを踏まえAlkireらは、麻酔による意識消失は視床正中中心核の特定のカリウムチャネル(Kv1.2チャネル)の阻害によってもたらされるという仮説を検証した。ラットをデスフルランまたはセボフルランに曝露し、視床正中中心核を目標にKv1.2抗体を投与した。対象ラットの30%では何の変化も認められず、13.4%は半覚醒状態、全覚醒に戻ったのは16.5%であった。この研究から、デスフルランまたはセボフルラン麻酔中に正中中心核の辺りへ正確にカリウムチャネル抗体を投与すると一時的に意識が回復することが分かった(fig. 2)。注入針の先端を視床中心正中核の内部へ留置したところ、対象ラットの75%において覚醒反応が認められた。以上の知見は、視床中心正中核が麻酔による意識消失and/or麻酔からの覚醒の調整を司る重要な中継点であり、電位依存性カリウムチャネルには吸入麻酔薬による意識消失効果を仲介する働きがあることを裏付けるものである。この特筆すべき研究で得られた結果により、麻酔を司る構造や機序の解明は一歩前進したと言える。意識消失作用に関する麻酔薬の主要作用部位の同定を目的とした今後の研究は、本研究を基にして行われるであろう。

Nouette-Gaulain K, Dadure C, Morau D, Pertuiset C, Galbes O, Hayot M, Mercier J, Sztark F, Rossignol R, Capdevila X: Age-dependent bupivacaine-induced muscle toxicity during continuous regional analgesia in rat. Anesthesiology 2009; 111:1120-7
局所麻酔が盛んに行われるようになってきた。それにつれて、よりよい術後疼痛管理を実現しようと、神経周囲にカテーテルを留置し局所麻酔薬を持続投与する方法が広まっている。当初はこの方法は成人にしか適用されていなかったが、次第に小児でも行われるようになり、現在では新生児でも実施されている。成人で発生した局所麻酔薬の投与による合併症が報告されているが、その一つに筋毒性がある。幼児や新生児における局所麻酔薬の筋毒性の強さや長期予後が、成人の場合と比較し同等なのか、軽いのか、それともより深刻なのかは分かっていない。このことを明らかにするためNouette-Gaulainらが実験を行った。若年(生後3週)ラットと成年(生後12週)ラットを、0.25%ブピバカインまたは等張食塩水の群に無作為に割り当て、該当薬を8時間のあいだに7回注入した。すると、ブピバカイン群では、筋ミトコンドリア内のATP合成が低下し、筋肉の超微細構造が破壊されていた。この結果自体は目新しいものではないが、若年ラットでは筋ミトコンドリアにおける生体エネルギー産生が経時的に低下し、筋原繊維の崩壊やZ帯の断裂が有意に増加するという観測結果は、憂慮すべき新しい発見である。眼科領域以外では、局所麻酔薬の筋毒性は臨床的には問題とはならないようだが、本研究で得られた知見を踏まえると、年少者では持続神経ブロックを行うのは問題があるのではないかという懸念が生ずる。この研究に勇を鼓され、年少者に対する持続神経ブロックの安全性を検証する臨床研究が実施されることを願うばかりである。

教訓 麻酔薬による意識消失作用の発現には、視床中心正中核のカリウムチャネルの阻害が重要な役割を果たしています。子供には末梢神経ブロックは不向きなようです。
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