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2009年を振り返って① [anesthesiology]

2009 in Review: Advancing Medicine in Anesthesiology

Anesthesiology 2009年12月号より

毎年恒例のレビューの時期が巡ってきた。本誌の使命は「将来性のある発見を促し、周術期、集中治療および疼痛医学の基礎と臨床の発展に貢献する」ことである。本レビューでは、本誌編集委員会がこの使命をまさに体現していると判断した論文を紹介する。今年は、周術期医学、集中治療医学および疼痛医学の三つの分野から同数ずつ、あわせて12編の原著論文を選んだ。この12編の大半には、すでに毎月の論説や、表紙絵、報道発表資料、本誌ウェブサイトでの公開などの形で脚光が当てられている。とはいえ、年の瀬に当たり簡略な内容をここに紹介すれば、今年発表された重要な知見を改めて思い出したり、まだ触れたことがない場合には一年の締めくくりに新たな発見を知ったりすることができるであろう。本記事が読者にとって有意義なものとなることを願っている。

Bateman BT, Schumacher C, Wang S, Shaefi S, Berman MF: Perioperative acute ischemic stroke in noncardiac and nonvascular surgery: Incidence, risk factors, and outcomes. Anesthesiology 2009; 110:231-8
本研究では、全国入院患者データベースの分析を通じ、周術期急性虚血性脳血管障害の発生率が明らかにされた。結腸切除、肺葉/部分切除、人工股関節置換術の周術期急性虚血性脳血管障害の発生率はそれぞれ0.7、0.6、0.2%であり、いずれの術式でも年齢が長ずるほど虚血性脳血管障害のリスクが上昇するという結果が得られた(fig. 1)。この研究は色々な点において重要であり一考に値する。第一に、高齢患者の予期せぬ死亡、後遺障害、日常生活自立度低下を招く重症合併症である急性虚血性脳血管障害に関心が集まった。そして、普段高齢者の周術期医療に携わっている麻酔科医たちが思っているよりも、急性虚血性脳血管障害の発生率は高いことがこの論文で明らかになった。第二に、この論文が強調しているのは、我々麻酔科医は、手術室の中だけでなく外へも視野を広げる必要があるということであり、これはちょうど2009年の本誌論説で年間を通じて取り上げられた話題である。第三に、非常に大きな入院管理データベースを用いて患者の安全性に関する問題の実態を明らかにするという好例が示された。最後に、人工股関節置換術周術期における急性虚血性脳血管障害の発生率が0.2%にものぼることが本研究で明らかになり、年齢だけが重要な要素であるわけではないのはもちろんだが、やはり高齢者は脆弱であるということが、ますます多くの高齢患者の管理に関わる我々に痛感された。

参照:周術期脳梗塞の発生率・危険因子・転帰

Waisel DB, Lamiani G, Sandrock NJ, Pascucci R, Truog RD, Meyer EC: Anesthesiology trainees face ethical, practical, and relational challenges in obtaining informed consent. Anesthesiology 2009; 110:480-6
麻酔科医は患者やその家族と、短いとはいえ濃い関わりを持つ。だからお互いに多くの情報を手早く効果的に伝え合い、お互いの主張や制約を理解しなければ、この関わりは成り立たない。本論文では、駆け出し麻酔科医に自由かつ主観的に語らせることにより(narrative research method)、患者と突っ込んだやりとりをしなければならない同意取得の際に彼らが直面する主な壁が明らかにされ、若い麻酔科医のための教育手法が検討された。得られた結果は、指導者にとっても被指導者にとっても、表向きは当たり前のものであった。つまり、不信感、誤解、情報過多、患者とその家族の意思と医学的判断との軋轢、などの問題が麻酔科医と患者およびその家族とのあいだに生ずることが明らかにされたのである。駆け出し麻酔科医たちが抱えている不安の大きさに著者らは衝撃を受けたが、我々麻酔科医の誰もが日常臨床の中で、若い麻酔科医たちが語ったのと同じような倫理、実務、人間関係上の困難に遭遇したことがあり、今もなおそのような経験を重ねているのだという考察を示している。高精度シミュレーションを行うと、手術室内での矢継ぎ早に変化する状況に、より迅速に、よりうまく対処できるようになり、手技の習得にも役立つ。本論文では、若い医師たちが一人前の医師として成長する過程において、患者との関わり方を改善させるための教育を行うことが重要であるという見解が示されている。

教訓 周術期急性虚血性脳血管障害の危険因子は、結腸切除または肺切除(人工股関節との比較において)、加齢、女性、糖尿病、心房細動、鬱血性心不全、脳血管障害の既往、腎疾患および弁疾患です。 ベテラン麻酔科医にとっても、麻酔の同意を取得するのは大変です。

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