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ALIにおける理学的所見とPACデータの関連~考察② [critical care]

Association of physical examination with pulmonary artery catheter parameters in acute lung injury

Critical Care Medicine 2009年10月号より

我々はさらに、低ScvO2の閾値を70%未満に設定した場合に、SvO2が60%未満であると予測できるかどうかを検討した。重症敗血症および敗血症性ショック患者を対象として、early goal-directed therapy(目標早期達成治療)を従来法と比較した前向き無作為化試験で、必要に応じて強心薬を使用し、ScvO2を70%以上に維持したところ(さらに、CVP>8mmHg、平均動脈圧>65mmHg、尿量>0.5mL/kg/hrを保つ)、生存率が改善するという結果が示されている。そのため、本研究ではScvO2の閾値を70%未満とした。Surviving Sepsis Campaignでも、ScvO2の閾値を70%に設定することが推奨されている。本研究で、ScvO2が70%未満であることからSvO2が60%未満であることを予測する精度を検討したところ、感度は84%と高かったが、擬陽性率が高かったため(ScvO2が70%未満でもSvO2は60%以上であった患者が多かったため)、陽性的中率は低く31%に止まった。敗血症を合併したALI患者(111名)のみについての評価でも、ScvO2とSvO2の相関については同様の結果が得られた(感度90%、特異度70%、陽性的中率41%、陰性的中率97%)。そして、ScvO2が70%以上であったときの96%で、SvO2が60%以上であり、両者には有意な相関が認められた。つまり、臨床的な有用性としては、ScvO2が70%以上であれば、SvO2が60%を下回っていることを否定できるということである。しかし、ScvO2を測定する本来の意義は、この値が70%を切っていると乳酸値が上昇していると判断されることにある。今回の研究の問題点は、乳酸値を測定しなかったことと、ScvO2およびSvO2が高い症例が多く、低い症例が比較的少なかったことである。ScvO2 70%未満かつSvO2 60%未満であった患者はわずか26名に過ぎなかった。したがって、本研究で得たデータからScvO2とSvO2の関係についていろいろ述べても、十分な検出力を背景にしているわけではないので、観測結果として位置づけなければならない。

基準時点におけるScvO2 70%未満と、SvO2 65%未満のあいだにも、SvO2 60%未満のときと同様の相関が認められた。Surviving Sepsis Campaignでは、SvO2の閾値を65%未満とすることが推奨されている。基準時点ScvO2 70%未満からSvO2 65%未満を予測する精度を検討したところ、感度78%、特異度78%、陽性的中率59%、陰性的中率90%であった。

だが、本研究ではScvO2とSvO2の同時測定を一時点でしか実施しなかったことが問題である。過去に行われた研究では、重症患者では持続測定ScvO2のトレンドはSvO2のトレンドをよく反映することが明らかにされている。ただし、そのためにはScvO2持続測定専用の中心静脈カテーテルを留置しなければならないという欠点がある。

この研究の特性として注意しなければならないのは、ALI発症からおよそ24時間後かつICU入室からおよそ48時間後における循環動態関連パラメータを評価したこと、ショックand/or昇圧薬投与に該当する患者は三分の一を占めるに止まったこと、そして重症敗血症患者はおよそ四分の一しか含まれていないことである。本研究の結果は、ショック患者の急性期治療を反映しているわけではない。この点は、ICU入室に先立つ救急部での重症敗血症および敗血症性ショック患者に対するearly goal-directed therapyについて評価したRiversらの研究と大きく異なる点である。さらに、本研究は遡及的研究であるため、理学的所見データおよびPAC測定値の収集が盲目的には行われなかったという、回避不能の弱点をはらんでいる。患者の心係数が分かっていれば、それによって徴候の解釈が左右される可能性がある。本研究のもう一つの問題点は、色素沈着があったり皮膚色が濃かったりする患者では膝のまだら模様の観察が難しいことである。対象患者のうちおよそ36%が「非白人」に分類された。また、この手の研究では、評価者間信頼性がバイアスとして強く作用することがあるが、今回は評価者間信頼性については評価しなかった。さらに、理学的所見の評価者は、血行動態データを知りうる状態で評価を行ったので、さらにバイアスが大きくなった可能性がある。

結論

本研究で得られた結果からは、毛細血管再充満時間の延長、皮膚冷感および膝のまだら模様は、低CIもしくは低SvO2の代替指標として有用であるとは言えない。なぜなら、CIおよびSvO2が正常値である頻度が高いので、理学的所見が陽性であることから低CI/SvO2を予測する際の的中率が低くなってしまうからである。

ALI患者においてScvO2はSvO2と有意に相関することが明らかになったが、信頼区間が広いので、この相関の臨床的有用性は不明である。しかしながら、本研究の結果は、ALI患者ではScvO2が70%以上であれば、SvO2が60%未満であることを否定できることを示している。ScvO2が70%未満であれば、他の臨床的パラメータを評価し、循環動態が適正であることを確認すべきである。今回の研究で得られた以上の結果は、前向き研究で詳しく検証する必要がある。

教訓 ALI患者ではScvO2が70%以上であれば、SvO2が60%未満であることを否定できます。ScvO2が70%未満であれば、他の臨床的パラメータを評価し、循環動態が適正であることを確認する必要があります。
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