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ALIにおける理学的所見とPACデータの関連~考察① [critical care]

Association of physical examination with pulmonary artery catheter parameters in acute lung injury

Critical Care Medicine 2009年10月号より

考察

ALI患者(ショックで昇圧薬を投与されている患者を含む)では、循環動態が不良であることを示す理学的所見(毛細血管再充満時間>2秒、膝のまだら模様および四肢冷感)は低CIまたは低SvO2の予測には役立たないことが明らかになった。CI<2.5の患者のうち、三つの所見のうち少なくとも一つが認められたのは、わずか52%に過ぎなかった(感度が低い)。また、三つの理学的所見のうち少なくとも一つが認められた患者のうち、CI<2.5であったのはたった17%であった(陽性的中率が低い)。SvO2 <60%の患者のうち、三つの所見のうち少なくとも一つが認められたのは、わずか40%に過ぎなかった(感度が低い)。また、三つの理学的所見のうち少なくとも一つが認められた患者のうち、SvO2 <60%であったのはたった24%であった(陽性的中率が低い)。

理学的所見が一つも認められないことでさえ、臨床的には何の有用性もないことが分かった。特異度と陰性的中率は高いものの、ALI患者におけるCI<2.5 (基準時点で8.1%の患者に認められた)およびSvO2<60% (基準時点で15.5%の患者に認められた)の発生頻度は低かった。理学的所見が一つも認められないことがCI>2.5およびSvO2>60%であることの予測に用いられるのであれば、ALIであることも同じ程度に正確にCI>2.5およびSvO2>60%であることを予測できることになってしまう。CIおよびSvO2が正常値であることの事前確率が高いため、循環動態不良を示す理学的所見が認められない場合の有用性を示すには、本研究の検出力は不足している。

本研究の対象となったALI患者において心機能低下例が少なかったのは、左房圧が上昇している症例や、30日以内に急性心筋梗塞を発症した症例を除外したことが一因である。この除外基準に沿って患者を選択しても、PAC群に割り当てられた患者の29%において、PAOP初回測定値は18mmHgを超えていた。ただし、大部分は19または20mmHgであった。PAOPが18mmHgを超えていた患者のうち、CI<2.5であったのはわずか3%に過ぎなかった。しかし、本研究の対象にPAOP>18mmHgの症例を含むのは、対象患者の均質性の点で懸念が生ずる。なぜなら、FACTTの対象患者のうち29%は、PACを挿入した時点でARDSの診断を行っていたとすれば、PAOPが高いということでARDSと診断されなかったはずだからである。対象患者にばらつきがあったことが影響して、理学的所見とPACデータに相関が認められないという結果に至った可能性がある。

臨床的判断に用いられる理学的所見および客観的パラメータは、PACで得られるパラメータとは相関しないことが先行研究でも示されている。本研究でも、それと一致する知見が得られた。ベッドサイドでの心拍出量予測は、せいぜい50%ぐらいしか的中しない。理学的所見による循環動態予測の精度を評価した先行研究では、色々な結果が得られている。外科系ICUに入室した患者264名を対象とした研究では、皮膚冷感は、心拍出量、心係数、SvO2、pHの低下および乳酸値の上昇と有意に相関しているという結果が得られている。本研究でも、回帰分析では四肢冷感と低CIには有意な相関があるという結果が得られたが、ROCでは臨床的有用性は認められなかった。外科系ICUの患者と、FACTTの対象となったALI患者とでは特性が異なるため、理学的所見による予測精度に差が生じたのかもしれない。四肢冷感は、敗血症性ショックよりも低容量性ショックにおいて、より有用な所見である。外科系ICUでは内科系ICUよりも低用量性ショックの発生頻度が高い。

本研究では、低SvO2と膝のまだら模様に有意な相関があることが分かったが、この所見が観測された症例数は少なかったので、さらに研究を重ねて検証する必要がある。前述の外科系患者を対象とした先行研究では、皮膚温低下のみが検討され、膝のまだら模様については評価が行われていない。その他の先行研究で、末梢循環不良を示す臨床徴候として膝のまだら模様を評価した研究は見当たらなかった。

毛細血管再充満時間の延長は、低CIや低SvO2を予測には役立たないという結果が得られた。先行諸研究についてのレビューでも、血管内容量が低下している成人では毛細血管再充満時間には診断価値がないと結論づけられている。一方、小児を対象とした同様のレビューでは、毛細血管再充満時間は、血管内容量低下による循環不全の診断に役立つ理学的所見であるとされている。

本研究では、ALI患者ではScvO2とSvO2が相関することが分かったが、信頼区間が広いため臨床的有用性についてははっきりしたことは言えない。SvO2は酸素運搬と酸素需要のバランスをあらわす指標である(ヘモグロビン減少、酸素摂取率上昇、酸素摂取率正常下での動脈血酸素飽和度低下といった状況ではSvO2は低下する)。今回の研究では、SvO2が低いと死亡率が上昇するという結果が得られた。同様の知見は先行研究でも得られていて、SvO2が低いほど炎症反応が強く、死亡率も高いことが分かっている。そして、SvO2を正常レベルに上昇させることを目標に治療を行うと、生存率が改善することが報告されている。SvO2の代替指標としてScvO2を用いる方法は、PACを留置しなくても可能なので、なかなか良さそうに思われる。先行研究でも、ScvO2とSvO2が相関することが示されているが、それが臨床使用にも耐えうるのかどうかという点については賛否両論がある。本研究では、今までに行われたどの研究よりも多くの数の、ScvO2とSvO2の同時測定を行い、ScvO2とSvO2に相関が認められることが分かった。しかし、ばらつきが大きかったので臨床的な有用性を示すには至らなかった。

教訓 ALI患者(ショックで昇圧薬を投与されている患者を含む)では、循環動態が不良であることを示す理学的所見(毛細血管再充満時間>2秒、膝のまだら模様および四肢冷感)は低CIまたは低SvO2の予測には役立たないことが明らかになりました。さらに、三つの所見が一つもないからといって、循環動態が適正であるとは言えず、臨床的には意味がないことが明らかになりました。


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