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免疫能正常のICU患者におけるCMV感染症~考察① [critical care]

Prevalence and mortality associated with cytomegalovirus infection in nonimmunosuppressed patients in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2009年8月号より

考察

サイトメガロウイルス感染症は、免疫抑制患者において発生率が高いことが知られている。だが、非免疫抑制状態の重症患者では、ルーチーンでの診断検査は行われていない。本研究で得られた知見によれば、非免疫抑制患者でもサイトメガロウイルス感染症の発生は珍しくはなく、ICU死亡率の上昇にもつながる可能性がある。

予想に違わず、活動性サイトメガロウイルス感染症の発生率は、PCR検査やpp65抗原検査のような精度の高い検査で診断を行った場合(20%)の方が、ウイルス培養によって診断した場合(12%)よりも高かった。重症患者における活動性サイトメガロウイルス感染症の発症には、過去のサイトメガロウイルス感染(=IgG抗体陽性)が深く関与している。IgG抗体の保有状況について記されていない研究では、活動性サイトメガロウイルス感染症の発生率は7%で、IgG抗体陽性の患者のみを対象とした研究では、発生率は31%であった。IgG抗体陽性率についての記載がない研究では、抗体陽性の患者も陰性の患者も一括して対象にしているため、陰性の患者(サイトメガロウイルスの既往感染のない患者)では発生率は7%を下回るものと考えられる。IgG抗体陽性患者において、活動性サイトメガロウイルス感染症発生率が陰性患者よりも高いのは、このウイルスには、潜伏感染の後に体内で再活性化するというよく知られた現象が起こるからである。

サイトメガロウイルスIgG抗体陽性患者において、サイトメガロウイルス感染症の診断にPCR検査/抗原検査を用いると、活動性サイトメガロウイルス感染症の発生率は36%に上昇する。この数字は、Limayeらが最近発表した前向き研究の中で報告されている33%という発生率と近い。免疫能が正常でサイトメガロウイルス抗体陽性のICU入室患者3人のうち1人に、サイトメガロウイルスの再活性化が見られるとしたら、それは驚愕に値することなのであろうか?その答えはおそらく否である。サイトメガロウイルス感染症の発生率がこんなに高いという結果が得られる理由は、数々の臨床研究および前臨床試験で得られたエビデンスからうかがい知ることができる。動物を用いた細菌感染モデルでは、サイトメガロウイルスの再活性化と、このウイルスによって直接的に引き起こされる疾患の発生が観察されている。ICU患者には輸血が行われることが珍しくないが、輸血製剤からサイトメガロウイルスに感染したり、同種輸血による刺激のせいで再活性化したりする可能性があることが指摘されている。また、非免疫抑制患者におけるサイトメガロウイルス感染症を300例近く集めた研究も発表されている。

大半の研究では、サイトメガロウイルスの定量PCR検査の結果は報告されていない。Limayeらは、ウイルス血症の程度と、入院期間の長期化または入院30日目までの死亡リスクとのあいだには直接的な相関関係があることを明らかにした。同様に、先行する別の研究でも、サイトメガロウイルス症候群and/orサイトメガロウイルス病を発症する患者は、そうでない患者よりも血中サイトメガロウイルス量が多い傾向があることが示されている。血中サイトメガロウイルス量は、臨床領域ではサイトメガロウイルス病の経過を判断する目的で用いられ、抗ウイルス療法開始の決定や治療効果の判定の指標とされている。今回我々が行った系統的レビューの対象の中では、唯一Papazianらだけが、病理組織検査によるサイトメガロウイルス肺炎の診断を行い、免疫能が正常なICU患者におけるサイトメガロウイルスによる重要臓器感染症の発生率を明確に示していた。

ICU入室後5日目までにサイトメガロウイルスの検査を行った研究では、サイトメガロウイルス感染症の発生率は1%であったが、5日目以降に検査を行った研究では21%であるという面白い知見が得られた。サイトメガロウイルス感染症の発生に時間がかかるのは、このウイルスの生物学的特徴のせいである。ウイルスによる疾患が発生するのに必要な時間は、ウイルス増殖の1サイクルの初めから終わりまでによって規定される。潜伏期から再活性化の過程に入る際には、増殖サイクルの時間が延長するのである。このことがICU滞在期間が長いとサイトメガロウイルス感染症発生率が高くなることと関連しているのだが、同様に、重症度が高いほどサイトメガロウイルス感染症発生率が高いことにも、増殖サイクルの延長が関連しているものと考えられる。重症敗血症/敗血症性ショック患者および重症度スコアの高い患者では、サイトメガロウイルス感染症発生率が有意に高かった(それぞれ32%、32%)。重症敗血症や、重症度の高い患者の方が、活動性サイトメガロウイルス感染症にかかりやすいのは何故であろう。非免疫抑制状態の重症患者におけるサイトメガロウイルス再活性化には、少なくとも三つの生物学的背景が関与している。この三つは単独または複合的に作用するものと見られている : 1)重症敗血症患者は、いわゆる「免疫麻痺」あるいは「代償性抗炎症反応症候群(CARS)」に陥ることがある。 2)細菌性敗血症そのものが、TNFα産生や細菌によるエンドトキシン放出により、潜伏感染しているサイトメガロウイルスを再活性化することがある。 3)外因性に投与されたカテコラミンによってサイトメガロウイルスが刺激され再活性化する。 サイトメガロウイルス感染症の発生率は、外科系ICU(23%)が内科系外科系混合ICU(8%)を上回った。これも、前述の三つの要因で説明が可能であろう。なぜなら、外科系ICU患者は、手術が直に作用してサイトカインが放出されたり、バクテリアルトランスロケーションが起こりエンドトキシンに曝露されたり、術中管理の一貫としてよく行われるカテコラミン投与や輸血によってウイルスが活性化されたり、といった状況に見舞われるからである。人工呼吸実施の有無でサイトメガロウイルス感染症発生率の差が認められなかったのは、報告バイアスによるものと考えられる。というのも、いろいろな背景因子を有する患者を対象とした複数の研究では、多数の人工呼吸患者を対象に含んでいるにも関わらず、人工呼吸患者のみについてのサイトメガロウイルス感染症発生率を報告していないからである。あるいは、人工呼吸はサイトメガロウイルスの再活性化には何らの影響も及ぼさないのかもしれない。サイトメガロウイルス感染症は、それ自体が免疫麻痺を惹起することがあるのは確かであり、免疫麻痺が起これば、敗血症による免疫麻痺が助長されたり、二次感染のおそれが大きくなったりする。

教訓 
非免疫抑制状態の重症患者におけるサイトメガロウイルス再活性化に関わる三つの生物学的背景:
1)重症敗血症患者は、いわゆる「免疫麻痺」あるいは「代償性抗炎症反応症候群(CARS)」に陥ることがある。
2)細菌性敗血症そのものが、TNFα産生や細菌によるエンドトキシン放出により、潜伏感染しているサイトメガロウイルスを再活性化することがある。
3)外因性に投与されたカテコラミンによってサイトメガロウイルスが刺激され再活性化する。
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