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重症患者の経静脈栄養~まとめ [critical care]

Parenteral Nutrition in the Critically Ill Patient

NEJM 2009年9月10日号より

有害作用
中心静脈栄養を行うと、機械的、代謝性および感染性合併症が発生することがある。経静脈栄養が正しく行われなかったり、現行の標準的診療レベルに達していなかったりすると、合併症発生頻度が相当上昇する。気胸、出血、血栓形成は、中心静脈カテーテル挿入による合併症である。カテーテル関連感染およびカテーテルとは無関係の感染が合併することは珍しくない。高血糖が認められる場合、内頸静脈または大腿静脈に中心静脈カテーテルを留置した場合、経静脈栄養専用ではない接続器具を用いた場合には、感染が発生しやすい。

栄養過剰(ブドウ糖、脂質または熱量投与量が多すぎること)や再栄養症候群(refeeding syndrome;低栄養状態の患者に急速に大量のブドウ糖を投与すると発生する代謝性合併症)が起こると、様々な代謝性合併症が認められる(Fig. 1)。炭水化物の代謝が活発になると、サイアミン(Vit. B1)必要量が増えるため、サイアミン欠乏症の症状および徴候が増悪することがある。インスリンにはナトリウム再吸収促進作用がある。栄養療法によってナトリウムと水分の投与量が増えると、インスリンの働きと相俟って細胞外液が急速に増えることがある。その結果、血中の電解質濃度が低下すると、不整脈が発生する可能性がある。以上の作用の結果、まれではあるが、特に元々心機能が低下している患者では、心不全に陥ることがある。その他の代謝性合併症には、高二酸化炭素血症、脂肪肝、神経筋機能障害および免疫能低下などがある(Fig. 1)。

未解明の分野
重症患者における、経静脈栄養開始の最適なタイミングおよび異なる投与熱量による効果の違いは、未だに明らかにされていない大きな問題点である。7日以上の期間にわたり最小限の栄養投与もしくは全く栄養を投与しない場合の臨床作用に関する前向き試験のデータは無きに等しい。経腸栄養を十分に実施することができない患者に経静脈栄養を併用して、熱量およびタンパク(アミノ酸)摂取量を目標量に到達させるやり方に、臨床的有用性があるのかどうかはまだ不明である。さらに、昔からある大豆油から作られた脂肪乳剤と、それ以外の脂肪乳剤(例;魚油、オリーブオイル+大豆油、中鎖トリグリセリド+大豆油、以上の油の混合物)の臨床的有効性の違いも分かっていない。

現在手に入るデータによれば、ICU患者では、グルタミン必要量が体内産生量を凌駕している場合があることが示されている。複数の臨床試験で、グルタミン強化経静脈栄養を行うと、タンパク同化作用、免疫機能増強、院内感染発生率の低下といった効果があることが明らかにされている。しかし、ICUにおける経静脈栄養にルーチーンでグルタミンを添加すべきか否かという問題については、臨床診療ガイドラインによって意見が分かれている。

ICU患者における最適な目標血糖値は、依然として解明されていない課題であり、また、経静脈栄養が行われている患者に特化した血糖値研究はまだ行われていない。ICU患者の各サブグループについて、各種ビタミンおよびミネラルの、生化学的かつ臨床的に最適な投与量についても臨床試験を実施して明らかにする必要がある。

ガイドライン
カナダ、ヨーロッパ、および米国の専門学会が作成した包括的な臨床診療ガイドラインが公表されている。今年これまでに刊行されたガイドラインでは、経腸栄養が不可能な場合は、7日以内(一編)もしくは3日以内(一編)に経静脈栄養を開始すべきであるとされている。ICU入室の時点でタンパク熱量栄養不良を呈する患者に対しては、米国臨床診療ガイドラインでは、経静脈栄養を遅滞なく開始すべきであるとされている。

症例要旨の推奨治療法
冒頭に掲げた症例要旨の患者の入院までの経過は、経口摂取不良、大幅な体重減少そして骨格筋および脂肪の喪失である。そして入院後は、大手術および炎症による異化亢進、糖尿および胃腸からの栄養素喪失により、さらに栄養状態が悪化する危険性の大きい状態に陥った。小腸を大量切除しているので、経腸栄養のみでこの患者の栄養必要量を完全にまかなうことが可能とは考えがたい。

したがってこの症例では中心静脈栄養を行うべきであると考えられる。この患者は再栄養症候群(refeeding syndrome)を発症する危険性があるので、経静脈栄養開始時の水分投与量は1Lとし、ブドウ糖投与量はほどほど(100g/dayぐらい)にとどめ、その他の成分については必要量を投与する。また、血中のマグネシウムとリンが低下しているため補充し、サイアミンも加える。上部消化管が機能し、血行動態が改善し安定したら、様子を見ながら経腸栄養を開始する。このような症例では、栄養に関する問題の取り扱いについては場数を踏んだベテランの栄養サポートチームにお任せするのがよかろう。

参照:重症患者の栄養ガイドライン

教訓 栄養をたくさんまたは急に投与すると代謝性合併症が発生する危険があります。今年これまでに刊行されたガイドラインでは、経腸栄養が不可能な場合は、7日以内もしくは3日以内に経静脈栄養を開始すべきであるとされています。ICU入室の時点でタンパク熱量栄養不良を呈する患者に対しては、米国臨床診療ガイドラインでは、経静脈栄養を遅滞なく開始すべきであるとされています。

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