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重症患者の経静脈栄養~病態生理 [critical care]

Parenteral Nutrition in the Critically Ill Patient

NEJM 2009年9月10日号より

症例要旨
2型糖尿病のある67歳女性。腸間膜虚血のため小腸大量切除および右半結腸切除が行われた。空腸瘻と結腸瘻が作成された。外科系ICUで重度のSIRSが認められ敗血症が疑われた。輸液負荷、昇圧薬投与、人工呼吸、広域スペクトラムの抗菌薬投与、インスリン持続静注が行われた。

NGチューブを用いて少量の経管栄養が開始された。だが、昇圧薬の投与量が増し、腹部膨満が顕著になり、胃内残量が増え嘔吐も認められたため、経管栄養は中止された。病院の栄養管理室に、栄養療法についてコンサルトした。患者家族からの聞き取りで、患者はここ6ヶ月間のあいだに普段と比べて約15%体重が減り、食べるとお腹が痛くなるため経口摂取量が低下していたということが分かった。患者の術前体重は51kgであり、これは理想体重の90%に当たった。診察したところ、骨格筋量および脂肪量の中等度減少が認められた。血液検査を行ったところ、低マグネシウム血症と低リン血症があり、肝機能および腎機能は正常であった。中心静脈栄養をすべきであると判断された。

臨床的問題
低栄養、つまり必須微量栄養素の減少と除脂肪体重の低下は、重症患者では珍しくない。重症患者の20~40%にタンパク熱量栄養不良の所見が認められる。入院期間が長引くほど、低栄養の発生頻度は上昇する。

入院前もしくは入院中にタンパク熱量栄養不良に陥ると、入院患者の罹患率および死亡率が上昇することが明らかにされている。栄養素の適切な摂取は、細胞および臓器の機能を良好に保ち、創傷治癒を促すのに不可欠である。タンパク熱量栄養不良は、筋力低下、院内感染の増加、創傷治癒障害、ICU患者の回復遷延などを招く。しかし、低栄養と臨床的転帰が不良であることの関係は複雑である。なぜなら、低栄養自体が栄養状態を悪化させる合併症を引き起こすことがあり、栄養療法が困難な患者ほど重症で死亡率や合併症発生率のリスクが高いからである。したがって、重症患者における低栄養による代償の真相を正確に評価することはできないのだ。

病態生理と治療効果
ICU患者に見られる低栄養の病態生理には、数々の要素が関わっている。重症疾患には、異化ホルモンとサイトカインの増加がつきものである。具体的には、インスリン拮抗ホルモン(例;コルチゾル、カテコラミン、グルカゴン)の血中濃度上昇、炎症性サイトカイン(例;IL-1、IL-6、IL-8、TNF-α)の血中および組織中濃度上昇、末梢組織の内因性タンパク同化ホルモン(例;インスリン、インスリン様成長因子1)に対する抵抗性が認められる。以上のような内分泌環境が出来する結果、グリコーゲン分解および糖新生が活発になり、骨格筋の喪失や脂肪分解の進行が起こり、この二つの現象が共に作用することによって、ブドウ糖、アミノ酸および遊離脂肪酸といった細胞および臓器機能と創傷治癒に必要な物質が内因性に供給される。生憎なことに、基質の血漿中濃度が上昇しても、末梢組織における利用可能率が低下していたり(インスリン抵抗性やリポタンパクリパーゼの阻害などが原因)、ある種の基質ではその血中濃度が代謝必要量を下回っていたりする。

重症患者は往々にしてICU入室前から自発的な食餌摂取量が減少している。その原因は、食欲不振、胃腸症状、抑鬱、不安およびその他の内科的外科的原因である。さらに、重症患者では、診断または治療手技を行うために経口摂取が制限されている場合もある。また、下痢、嘔吐、多尿、創部、ドレーン、腎代替療法などの原因により、摂取した栄養が多量に失われるような状態に陥ることも珍しくない。ベッド上安静、身体活動の減少、人工呼吸中の筋弛緩薬の使用によって、骨格筋量が減少し、タンパク同化反応が阻害される。ICU患者に投与される頻用薬自体が、骨格筋の喪失を招いたり(コルチコステロイド)、内臓血流を減少させたり(昇圧薬)、電解質・微量元素・水溶性ビタミンの尿による排泄を増やしたり(利尿薬)する。感染、手術侵襲、その他の侵襲は、熱量消費を増やし、タンパクおよび微量元素の必要量を増やす。

栄養療法を実施する必要のある重症患者の大半(85-90%)では、胃または腸に留置したチューブを用いて経腸栄養を実施することができる。経腸栄養から経口摂取に移行する場合は栄養補助製剤を用いる。しかし、重症患者のうち約10-15%では経腸栄養は禁忌である。完全静脈栄養では、水分、ブドウ糖、アミノ酸、脂肪乳剤、電解質、各種ビタミンおよび微量元素が経静脈的に投与される(Table 1)。インスリンなど特定の薬剤も一緒に投与することがある。経静脈栄養による治療効果を高めるには、熱量(主にブドウ糖と脂質から得る)、必須および非必須アミノ酸、必須脂肪酸、各種ビタミン、微量元素および電解質を満遍なく投与する必要がある。以上の構成成分は、細胞および臓器の重要機能、免疫、組織修復、タンパク合成および骨格筋・心筋・呼吸筋の量を維持するのに使われる。

参照:重症患者の栄養ガイドライン

教訓 重症患者では、グリコーゲン分解および糖新生が活発化し、骨格筋の喪失や脂肪分解が進行します。その結果、ブドウ糖、アミノ酸および遊離脂肪酸といった、細胞および臓器機能と創傷治癒に必要な物質が内因性に供給されます。ただし、末梢組織における利用可能率が低下していたり(インスリン抵抗性やリポタンパクリパーゼの阻害などが原因)、ある種の基質ではその血中濃度が代謝必要量を下回っていたりします。
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