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喘息最前線2008~病型分類 [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

喘息の新しい病型

2008年には、統計的モデル化を用いた喘息の研究が行われ、発表された結果は、喘息の病理生物学に関連したこの年の論文の中で最も興味深いもの一つであると受け止められたと思われる。Haldarらは、高度な数学的モデルを用いた手法(クラスター分析)を用い、異なる3つの喘息患者コホートを対象に、7~8個の変量についてそれぞれの関連を分析し、臨床で遭遇する喘息の病型(「クラスター」)を同定した。このクラスター分析において選択された変量はいずれも客観的指標であった。具体的には、アトピーの合併(皮膚テスト陽性)、症状(修正Juniper問診表)、痰の好酸球増多、呼気流速、性別、喘息発症年齢、BMI、メサコリンに対するPC20(FEV1 を20%低下させるメサコリン濃度;これはプライマリケアコホートのみで記録)であった。

第1コホートはプライマリケア診療所を受診中の喘息患者(n=184)であり、発症年齢、アトピーの有無、痰の好酸球増多、BMIにより3つのクラスターに分類された。「良性喘息」と名付けられたクラスターでは、患者の58%に気道過敏性は認められず(PC20 ≤8 mg/ml)、本当に喘息なのかと疑念を呈さざるを得ない患者が多く含まれていた。クラスター1(早期発症のアトピー喘息)は早期発症で痰の好酸球増多をともなうアトピー喘息の患者が属した。クラスター2(肥満で好酸球増多がない)には肥満女性が多く、痰の好酸球増多が認められないタイプである。第2コホートは専門医の診察を受けている難治性喘息患者コホート(187人)から成る。このコホートでも第1コホートと同様のクラスター分類(クラスター1とクラスター2)を適用した。さらに、このコホートには重症喘息に特異的な特徴を条件とする2つのクラスターが加えられている。このコホートの32%は、ステロイド内服(OCS)を長期間継続している重症喘息の患者で、ほぼ全員にLABAが投与されていた。平均4回のOCSパルスの経験があり、1人あたり年間1.5回の入院治療を受けていた。クラスター3(小児期発症症状優位群)はクラスター1(早期発症アトピー性喘息)と殆ど同型であるが、クラスター1と異なり痰の好酸球増多が見られず、症状も軽い。クラスター4(炎症優位群)は他のクラスターとは大きく異なり男性に多く(53%)、成人発症であり、アトピーはなく、痰の好酸球増多が著しく、症状はごく少ない。

第3コホート(n=68)は、縦断臨床試験の対象患者であり、特性がはっきりしている。この縦断臨床試験は、著者らが過去に報告した、痰の性質によって治療法を決定する方法についての臨床試験に基づいている。驚くべきことに、この第3コホートには、早期発症アトピー型喘息クラスターに該当する患者は見受けられなかった。第2コホートの患者のうち40%は早期発症アトピー型喘息クラスターに分類されているし、早期発症アトピー型喘息はこの臨床試験の対象患者として基準を満たすはずなのに、そうではなかった。第3コホートにも他のクラスターに該当する患者は存在したが、第2コホートの同じ名称のクラスターと比較すると違いが認められた。最大の差異は、痰に含まれる好酸球の平均割合が、第3コホートでは第2コホートよりも、早期症状優位群において高く、炎症優位群において低かったことである。そのため第3コホートでは、クラスター間のオーバーラップが多かった。

統計的モデル化手法を用いて、新たなる喘息の病型を明らかにしようとする試みは、目新しく、興味を惹かれるものではあるが、この手の解析には統計学上の落とし穴がつきものである。クラスターの正確さは、標本数によって左右される(上記の研究では、第3コホートの標本数が小さい)。解析が繰り返されるたびに、クラスターが偏倚する可能性がある。実際(著者らも指摘している通り)、病型は連続的なものであり、はっきりした分類ができるわけではない。しかし、日常臨床では、患者をグループ分けして、その分類に基づいて治療方針を決定できれば願ったり適ったりである。痰の検査を必要としない分け方であれば、なおよい。とは言え、この研究の真骨頂は、重症喘息患者の多くでは症状とバイオマーカーが一致していないことを示したことである。痰の所見によってステロイド投与の是非を決定する方法についての前向き臨床を再分析したところ、炎症優位群においてこの方法が、もっとも効果的に症状の増悪を押さえ込めることが分かった。このクラスターは痰に好酸球が最も多い患者から成るため、予想される通りではある。以上を総合すると、痰の好酸球増多をバイオマーカーとして評価する方法は、やはり依然として、ステロイド投与量増減を決定する際の最適な方法であると言える。クラスター分析は喘息の新しい病型を同定するのに役立つ方法ではあるが、その結果をいかに利用するかということについては混沌としている。

教訓 重症喘息患者の多くでは症状とバイオマーカーが一致しません。
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