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喘息最前線2008~治療薬のリスク① [critical care]

Update in Asthma 2008

Am. J. Respir. Crit. Care Med. 2009年5月15日号より

毎年恒例の本記事において、昨年はNational Asthma Education Program Panel (NAEPP)が 策定した最新の喘息診断・治療ガイドラインを解説し、ガイドラインに基づいた喘息治療薬の使用方法について多くを割いた。今年は、喘息治療薬の安全性に主眼を置いて解説する。喘息治療に関する臨床系論文のテーマは様変わりしている。以前は大規模臨床研究が花形であったが、今では臨床領域における「悩みの種」や「様々な病型」などが主に扱われるようになってきた。病型については、重症例や、COAST 、CARE およびCAMPなどのネットワークによる小児喘息に関する論文が発表されている。また、喘鳴のある小児におけるウイルスの関与、肥満と喘息の関係などの分野についても研究が展開されている。2008年に発表された論文がもたらした成果は、遺伝、若年期の生活様式あるいは環境が喘息の発症や重症度に与える影響についての理解が進んだことである。また、ヒトやマウスにおける病理生物学分野の基礎研究によって、喘息の各病型に特有の機序についての知見が得られた。新しいモノクローナル抗体および昔からある薬剤(マクロライド)の新しい使用法についての、最重症喘息患者に対する治療法の一選択肢としての可能性を検討する臨床試験も行われた。

喘息治療薬のリスク

2008年は喘息治療薬についての騒動(噴射力が弱い吸入剤への移行)とともに幕を閉じた。1987年に発表されたモントリオールプロトコールに基づき、クロロフルオロカーボンを噴射ガスとして用いた定量噴霧式吸入器が市場から姿を消し、別の噴射ガスであるヒドロフルオロアルカンが取って代わった。議論の余地はあるもののヒドロフルオロアルカンはクロロフルオロカーボンより好ましいとされているが、価格が高いのが難点である。長時間作用性β-刺激薬(LABA)の安全性についての大掛かりなFDA公聴会が開催され、2008年12月にFDA諮問委員会で結論が出された。同時に、現在出回っている喘息治療薬(ロイコトリエン修飾薬、主にモンテルカスト)および喘息治療薬として市販される可能性のある薬剤(抗コリン薬)についても精査された。以上に関する情報は公共メディアで取り上げられ、不幸にして必ずしも正しい情報が伝えられたとは言えず、非常に扇情的な形で報道された。その結果、臨床医家に問い合わせの電話が殺到することになった。

LABAの安全性

2006年1月、Salmeterol Multicenter Asthma Research Trial (SMART) 研究の結果が公のものとなり、LABAについての議論が噴出した。SMART studyは、26355名を対象とした大規模無作為化二重盲検比較試験であり、「通常の喘息薬物療法」にサルメテロールを併用した際の効果が評価された。サルメテロール群では、喘息関連死ならびに致死的事象の発生が偽薬群より有意に多いという結果が得られた。この研究には、結果の解釈を困難にするいくつかの交絡因子が関与している。そのなかで最も重大なものは、吸入ステロイド療法(ICS)の併用が必須ではなかったことである。LABA単剤療法はNAEPガイドラインのいずれのバージョンでも支持されていない。したがって、SMART 研究で得られた知見を臨床現場に適用することの妥当性は不明であり、サルメテロール併用療法が治療の選択肢とはなり得ないことを明らかにしたという意義しか見いだせない。実際のところは、2002年NAEPガイドラインで治療抵抗性の中等度喘息例に推奨されているICSとLABAの併用療法において、LABAが転帰を悪化させるかどうかということに関心が集まっているのである。Jaeschkeらは2008年に、ICS使用患者にLABAを併用した場合の喘息に関連する入院率および死亡率を解析した無作為試験62編を対象としたメタ分析を発表した。対象患者総数は29000人(>12歳)にのぼったにも関わらず、喘息関連死亡や気管挿管を要した症例が少なすぎて(一研究あたり一例以下)LABAが転帰に与える影響をはっきりさせることはできなかった。LABA使用例では喘息関連の入院が少ない傾向が認められたが(OR 0.74、CI 0.53-1.03)、統計学的に有意な差が認められるほどではなかった。この報告は、Batemanらが行ったICS併用時のLABAの安全性についての類似研究で得られた結果と一致する。Batemanらの研究では、ICSとLABAの併用が安全であることが示されている。2002年のガイドラインでは、治療抵抗性の中等度喘息にはICSの倍量投与よりも低容量ICSに加えLABAを併用するのが望ましいとされていたが、2007年のNAEPガイドラインではこの記載が撤回された。しかし、数多くの無作為化臨床試験によって低容量ICSにLABAを併用する治療法の有効性が示され、その安全性についても本年発表された2編のメタ分析で確認されている。

教訓 ICSとLABAを併用した場合の、LABAが転帰に与える影響はまだよく分かっていませんが、低容量ICSにLABAを併用する治療法の有効性と安全性は複数の研究で確認されています。
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