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OLV中の低酸素血症の予測・予防・治療~治療 [anesthesiology]

Hypoxemia during One-lung Ventilation: Prediction, Prevention, and Treatment

Anesthesiology 2009年6月号より

OLV中の低酸素血症の治療

OLV中に低酸素血症が発生したら、直ちに次の二つの策を同時進行で実行しなければならない:①低酸素血症を迅速かつ効果的に治療する。②低酸素血症の原因を究明し、可能であれば是正する(fig. 5)。

吸入気酸素濃度を上げる
OLV中の低酸素血症の治療法として即効性があるのは、吸入気酸素濃度を上げることである。シャント率が40%を上回る場合は、吸入気酸素濃度を上げても酸素化は改善しないことがある。ただし、OLV中にシャント率がこれほど高くなることは滅多にない。OLV中のシャント率は通常は20-30%なので、吸入気酸素濃度を上げれば酸素化を改善させることができる。吸入気酸素濃度を0.3から0.5、1.0と上昇させると、酸素化が良くなり低酸素血症発生率が低下することが示されている。OLV中は全例で吸入気酸素濃度を1.0としてもよいが、無気肺が発生するおそれが大きくなるし、笑気を使えないという難点が生ずる。さらに、我々が行った臨床研究では、吸入気酸素濃度をおよそ0.5にしてOLVを行い、パルスオキシメトリで酸素飽和度を測定していると、酸素化の低下を早期に検知することができ、かつ、吸入気酸素濃度を1.0に上げれば酸素化が改善し、酸素化悪化の原因を突き止める時間的余裕も得られることが分かった。この早期異常検知法を採ると、非換気側肺の換気を即座に行う必要性に迫られることが少なくなり、手術の進行を妨げる機会が減る。

非換気側肺の換気再開
低酸素血症に陥り、吸入気酸素濃度を上昇させても酸素化が改善しないときは、執刀医に断った上で手術側肺を純酸素で換気する。3-5分おきに手術側肺を用手換気すれば事足りることもあるが、3-10cnH2OのCPAPをかけて手術側肺を拡張させたままにしておく方が、酸素化改善の効果は大きい。外科医にとっては、パカパカ換気されるよりも、拡張したままで動かない肺の方が手術しやすいであろう。OLV中に5-10cnH2OのCPAPをかけると酸素化が改善することが、多くの研究で明らかにされている。5-10cnH2OのCPAPによる酸素化の改善は、CPAPをかけるために使用している新鮮ガス中の酸素によってもたらされる。実際の症例では、すでにすっかり虚脱した肺にCPAPをかけても、ただちに肺が拡張するとは限らないため、酸素化が改善しないこともある。したがって、一度高い圧をかけて虚脱肺を拡張させ、それからCPAPをかけないと安定的に肺を膨らましておくことができない。OLVを行う症例では全例で予防的にCPAPを利用するとよさそうにも思えるが、肺が膨らんだままではできない手術もあるし、肺を虚脱させないと手術ができないと言う外科医もいる。

胸部手術中の低酸素血症を治療する方法の一つに、非換気側肺に対するHFJVがある。HFJVは呼吸数が多く一回換気量が小さいので、手術側肺にジェット換気を行ってもほぼ不動を保つことができる。手術の進行の妨げにはならない。しかし、HFJVの装置は高価であり、使用には熟練を要し、さらに圧損傷の危険性もあるため、普及はしていない。

OLV中の低酸素血症の原因を解消する
OLV中に見られる低酸素血症の原因のうち是正可能なものとしてよく遭遇されるのは、DLTの位置異常、不適切な換気方法による換気側肺の無気肺および分泌物または血液による換気側肺主気管支の閉塞であることが、臨床経験を積むと分かる。低酸素血症を起こす原因の一部は、気管支鏡を使用すれば直ちに是正することができる。DLTがずれたり、主気管支が分泌物で閉塞したりした場合は、気管支鏡でチューブ位置をなおしたり、分泌物を吸引すればよい。しかし、ずれも閉塞もない場合は、換気方法が適切かどうかを再考する必要がある。我々の臨床経験によれば、このような状況に至ったときには、換気側肺に高い圧をかけて無気肺を解除し、PEEPレベルand/or一回換気量を上げて肺の開存を維持できるように人工呼吸器を設定すると、たいてい事態を打開することができる。最近の研究では、OLV中の酸素化にはリクルートメントが有効である可能性が指摘されている。CinnelaらはOLV中の換気設定を一回換気量6mL/kg、PEEPなしとし、1分間のリクルートメント手技を行った。リクルートメント後に5cmH2OのPEEPをかけた。PaO2/FIO2比は235から351へと上昇し、コンプライアンスも改善した。リクルートメント手技の最中には心拍出量および平均動脈圧が低下したが、終了後にはすぐに前値に復した。OLV中のリクルートメント手技が酸素化に与える影響は、いろいろな要素によって左右されるが、中でも、当初の換気方法が無気肺を防ぐように設定されていたか否かという点が大きい。リクルートメント手技によって酸素化が改善する症例では、PEEPを加えるまたは上げる、一回換気量を増やすといった人工呼吸器設定の変更を行い、肺が常に開存するようにしなければならない。

我々の経験では、解決不能な原因による低酸素血症を来す患者は数少なく、その場合は、術式にもよるが持続的または間欠的な5-10cmH2OのCPAPが使用される。さらに、OLV中の酸素化を適正に保つため、手術の初めから終わりまでリクルートメント手技を行い10cmH2OまでのPEEPをかけ換気側肺を開存させるよう努めなければならないこともある。

OLV症例の5-10%で低酸素血症が発生する。術前の肺機能異常、手術側および血流分布が、低酸素血症発生の予測因子として重要である。OLV中の低酸素血症の予防および治療の方法は、気管支鏡による観察、適切な換気方法の選択、吸入気酸素濃度上昇、および非換気側肺に対するCPAP使用である。

教訓 OLV中に見られる低酸素血症の原因の中で、是正可能でありかつ頻度が高いのは、DLTの位置異常、不適切な換気方法による換気側肺の無気肺、分泌物または血液による換気側肺主気管支の閉塞です。
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