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OLV中の低酸素血症の予測・予防・治療~予防③ [anesthesiology]

Hypoxemia during One-lung Ventilation: Prediction, Prevention, and Treatment

Anesthesiology 2009年6月号より

非換気側肺への酸素投与
非換気側肺への酸素投与は、OLV中の低酸素血症の治療を企図して行われることが多いが、予防目的で実施されることもある。非換気側肺に酸素を投与する場合は、同時にCPAPをかけることもできる。OLV中に酸素化を改善するのにCPAPは大きな威力を発揮する。3cmH2O程度の低いCPAPでも十分な効果が得られることが分かっている。ルーチーンでCPAPをかけると、酸素化の改善が得られるだけでなく、非換気側肺の傷害を予防するという点でも有用である可能性があるという意見がある。OLV後に非換気側肺が再拡張すると、活性酸素が放出されることが最近の研究で明らかにされている。この知見はおそらく、再灌流との関連があると考えられる。OLV中にルーチーンでCPAPをかけると、拡張はしているとはいうものの換気は行われていない肺からの活性酸素の放出が抑制されるのか、また、このことが術後の転帰や、患者の総合的な全身状態の改善につながるのかどうか、という点についてはさらに研究を積み重ねて明らかにする必要がある。ただし、術式によっては、すなわち胸腔鏡手術のような手術では、CPAPは手術の妨げになることがあるし、外科医の多くは通常の開胸術であってもCPAPに難色を示すものである。ルーチーンCPAPのもう一つの問題点として、酸素化が良くなるという効果のせいで、気管支内チューブの位置がずれたり、換気側肺の無気肺が生じたりしても、明るみに出づらくなることが挙げられる。酸素化の改善を目的として、Tピース回路を用いてCPAPをかけずに酸素を投与する方法もあり、それなりの効果が得られることが分かっている。

血流の調節
換気側肺の血流を増やす薬剤、もしくは非換気側肺の血流を減らす薬剤を使った研究が数多く行われている。その一つが、OLV中に一酸化窒素(NO)を投与する方法である。NOは内皮依存性の血管拡張因子の一種である。NOは気体なので、麻酔中の投与は造作もない。NOを吸入させることによって、換気側肺の血管を選択的に拡張すると、OLV中に換気側の血流が増え酸素化が改善するかどうかを検証する研究が、複数のグループによって行われている。5から40ppmのNOを投与してもOLV中の酸素化は改善せず、低酸素血症の発生を防ぐ効果も認めらないことが明らかにされている。

血流を調節するには、薬剤を用いて非換気側肺の血流を減らすという方法もある。そんな薬剤の一つがアルミトリンである。アルミトリンはHPVを強化することによって、非換気側肺の血流を減らすと考えられている。HPVは生理的反射であり、低酸素または無気肺に陥っている部分の細動脈が収縮することによって、その部位への血流が減る現象である。HPVが起こると、非換気側肺の血流が減るので、シャント率が低下し酸素化が改善する。OLV中にHPVが強化されれば、非換気側肺の血流が一層低下し、酸素化が良くなると考えられる。ある研究では、OLV中にアルミトリンを16mcg/kg/min投与し(NOも併用)、PaO2が130%以上上昇するという結果が報告されている。最近の研究によれば、これより少ない量のアルミトリンとNOを併用し、同程度の効果が得られることが示されている。しかし、OLV中の酸素化にアルミトリンが及ぼす効果は、今のところは一考に値する知見という扱いに止まっており、概念の証左とは考え得るものの、ただちに臨床に応用できるようなものではない。このような方法を用いなくても、正しい管理を行っていればOLV中の低酸素血症発生率は5%未満に過ぎないのである。さらに、臨床医はアルミトリンをルーチーンで使用するのを忌避するかもしれない(というより、忌避すべきである)。その理由は、アルミトリンに毒性があるからというだけでなく、もしOLV中に低酸素血症に陥ったとしても、もっと簡便で効果的で安全な対処法があるからである。非換気側肺にCPAPをかけたり、非換気側を間欠的に換気したりすることが困難なVATS症例のうち、低酸素血症が発生する可能性が高い患者において、アルミトリンが低酸素血症を予防または治療するための最後の手段となることはあるかもしれない。

麻酔法
麻酔法の違いはOLV中の酸素化にはそれほど影響を及ぼさないようである。ただし、麻酔法によって酸素化に差が生ずるという結果を示す動物実験も報告されている。In vitroでは、吸入麻酔薬は例外なくHPVを抑制し、静脈麻酔薬は大半がHPVを抑制しない。麻酔薬によるHPV抑制作用は、in vitroでしか認められないというわけではなく、in vivoでもOLV中のHPV抑制が確認されている。Dominoらが行った動物実験では、右肺を純酸素、左肺を低酸素濃度の混合気体で換気が行われた。低酸素濃度混合気体で換気を行った左肺のみにイソフルランを投与したところ、量依存性に肺内シャントが増えPaO2が低下した。この研究の目的は、in vitroで認められるイソフルランによる量依存性HPV抑制作用が、in vivoでも発生するかどうかを検証することであった。換気側肺に吸入麻酔薬を投与し、その効果を調べた他の研究でも、OLV中に吸入麻酔薬を投与すると酸素化が悪化することを示唆する結果が得られている。だが、別の複数の実験では、OLV中に吸入麻酔薬濃度を上昇させても酸素化が悪化しないどころか、濃度を上昇させるとシャント率や換気側肺の血流が減るという結果が示されている。ある研究では、吸入麻酔薬濃度を上昇させると、非換気側肺の血流が減り、シャント率が低下するが、酸素化は変化しないという結果が報告されている。この研究では、吸入麻酔薬によって心拍出量、両肺の血流分布および静脈血酸素飽和度が変化し、これらの総合的作用の結果OLV中の酸素化が一定に保たれたと結論されている。大半の臨床研究では、吸入麻酔薬(0.5-1MAC)と静脈麻酔薬を比較すると、酸素化には差がないか、あったとしてもごくわずかであり、臨床的に問題となるような差はないという結果が示されている。以上の知見から、臨床的には、吸入麻酔薬がHPVに及ぼす直接的な影響によって酸素化が悪化するとは限らないと言える。その主たる理由は、吸入麻酔薬が血行動態全体に与える作用によって、HPVに対する影響が相殺されるからである。

胸部手術では、術中および術後鎮痛に硬膜外麻酔が行われることが多い。硬膜外麻酔はHPVを抑制しないことが実験で明らかにされている。しかし、プロポフォール-フェンタニルによる全身麻酔に局所麻酔薬による硬膜外麻酔を併用した麻酔をOLV中に行ったところ、全身麻酔単独の場合と比べPaO2が低下した(平均約180mmHg→平均約120mmHg)という結果が臨床研究で得られている。ただし、この研究における低酸素血症の発生頻度は両群で同等であった。全身麻酔(GOI)と硬膜外麻酔併用全身麻酔を比較した最新の研究では、酸素化についても低酸素血症発生頻度についても差はないという結果が得られている。この研究の著者らは、硬膜外麻酔を併用すると、OLV中の吸入麻酔薬濃度を低くすることができるので、HPVがあまり抑制されず酸素化が改善すると推測している。しかし、TIVAに硬膜外麻酔を併用しても酸素化は変化しないという研究結果が報告されており、この推測は当を失していることが分かった。Von Dossowらが行ったこの研究では、OLV中にプロポフォール-レミフェンタニルによるTIVAに硬膜外麻酔を併用したところ、TIVAのみの場合と比較し、肺循環および体循環には差は認められず、酸素化は硬膜外併用の方が良好であるという結果が得られた。以上から、麻酔法(吸入麻酔薬 vs. TIVA/硬膜外麻酔 vs. TIVAのみ)それ自体が、OLV中の酸素化に影響を与えることはないと言える。

ヘモグロビン濃度
Deemらが行った研究では、ヘモグロビン濃度が低いとシャント率が上昇し酸素化が悪化することが明らかにされている。Szegadiらは、COPD合併患者および非合併患者を対象に、急激な血液希釈がOLV中の酸素化に及ぼす影響を検討した。急速に500mL脱血を行っても、COPDのない患者では酸素化は変化しないが、COPD合併患者では酸素化が悪化するという結果が得られた。残念ながら、この研究ではシャント率および混合静脈血酸素飽和度が測定されていないので、なぜこういう結果が得られたのかを推測することは困難である。原因の一つとして考えられるのは、OLV中の酸素化はシャント率だけでなくシャント血の酸素化によっても左右されることである(fig. 4)。シャント血(静脈血)の酸素化が低下する要因は、酸素摂取率の上昇(低心拍出量または酸素消費量上昇のとき)と低ヘモグロビン濃度である。したがって、シャント率、心拍出量、酸素消費量、静脈血酸素飽和度およびヘモグロビン濃度のすべてが互いに作用しあって酸素化に影響を与えるものと考えられる。

教訓 麻酔法自体が、OLV中の酸素化に影響を与えることはないようです。吸入麻酔薬と静脈麻酔薬とを比べると、OLV中の酸素化には差はありません。

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