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周術期の禁煙~神経② [anesthesiology]

Perioperative Abstinence from Cigarettes: Physiologic and Clinical Consequences

Anesthesiology 2006年2月号より

周術期に見られる影響

喫煙者の神経系が麻酔や手術に対して示す反応には、いくつかの要素が影響を及ぼしていると考えられる:(1)長期間の喫煙習慣によって生じた中枢神経系の慢性的変化 (2)術前の喫煙によるコチンまたはその他のタバコ煙成分が引き起こす急性反応の残存 (3)禁煙によるニコチンの離脱症状の影響。以上の要素の周術期における意義の解明は、まだ端緒についたところである。臨床的に重要な問題は次の二点である。:(1)喫煙が麻酔薬や鎮痛薬の必要量にどのような変化をもたらすのか、(2)禁煙中の喫煙者ではニコチン離脱症状が術後の回復にどんな影響を及ぼすのか。

神経系に存在するニコチン性アセチルコリン受容体は、臨床量のイソフルランおよびプロポフォールで阻害される。したがって、ニコチンを摂取すると麻酔必要量が変化する可能性がある。マウスにニコチンを急性投与すると、MACがわずかに低下する。ヒトでも喫煙の有無によってMACが変化するかどうかは分かっていない。

痛みの感じ方に対する喫煙の影響は複雑で、実験で得られている知見にはばらつきがある。大多数の研究では、喫煙によって疼痛刺激に対する耐性および閾値が上昇するという結果が得られている。この手の研究の中で最も質の高いものの一つであるPauliらの研究では、12時間の禁煙を実施した男性では、疼痛閾値の変化は認められなかった。しかし、禁煙中に喫煙すると疼痛閾値が低下するという結果が得られている。Jamnerらは、喫煙者、非喫煙者を問わず、ニコチンパッチを用いると男性では疼痛閾値が上昇するが、女性では変化がないことを報告している。

喫煙は、腰痛や筋骨格系の痛みなど、様々な疼痛の危険因子である。CABG、口腔外科手術、骨盤手術後のオピオイド必要量が、喫煙者では非喫煙者より多いことが分かっている。一般外科手術を受ける喫煙者では、術前および術後の疼痛スコアが高いという結果が得られている。だが、術前と術後の疼痛強度の差は、非喫煙者と遜色なかった。ただし、これは疼痛を二次エンドポイントとした研究の結果である。手術終了時にニコチンを点鼻投与すると、非喫煙者の術後疼痛スコアと鎮痛薬必要量を有意に減らすことができる。したがって、喫煙習慣の有無およびニコチンは、明らかに術後疼痛に影響をおよぼしているものと考えられる。しかし、臨床的な関連性を明確にするには、さらにデータを収集する必要がある。

喫煙者の多くは、煙草をストレス解消策と見なしている。大変の研究では、喫煙によるストレス指標の改善が認められているが、単に、吸わないとニコチン離脱症状が出てくるため、それを防ぐために喫煙していることを示しているに過ぎないとも言える。とは言うものの、禁煙は、手術そのものによるストレスを増大させる可能性もある。Warnerらが行った、一般外科手術を受ける患者を対象とした前向き観測研究では、喫煙者の方が普段のストレスが大きかったが、周術期におけるストレス強度の変化は、非喫煙者と類似していた。ニコチン離脱スコアからは、術前のニコチン依存が強い患者を含め喫煙者は必ずしも、術直後にニコチン離脱症状を呈するわけではないということが分かった。この結果と呼応するように、続いて行われた予定手術を受ける喫煙者を対象とした無作為化試験でも、ニコチンパッチを用いてもストレスやニコチン離脱症状には偽薬パッチを上回る効果はないことが示されている。ただし、ニコチンパッチを使用すると、術後の喫煙行動にはある程度の効果をもたらす。以上の研究結果は、先行する諸研究とも平仄が合う。軍事訓練や収監のように、強制的に禁煙せざるを得ない状況で強いストレスに曝されると、ニコチン離脱症状が少ないという結果が得られている。術後には、禁煙していてもニコチン離脱症状がわずかにしか見られないということは、喫煙者にとって手術は、煙草と生涯縁を切るための素晴らしい機会であることを示唆している。

教訓 喫煙によって疼痛刺激に対する耐性および閾値が上昇します。ニコチンパッチを用いると男性では疼痛閾値が上昇し、女性では変化がありません。刑務所に入ったり、軍隊に入ったりして強制的に禁煙せざるを得ない状況で強いストレスに曝されると、ニコチン離脱症状が少ないという結果が得られています。

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