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周術期の禁煙~創傷・骨の治癒① [anesthesiology]

Perioperative Abstinence from Cigarettes: Physiologic and Clinical Consequences

Anesthesiology 2006年2月号より

周術期創傷治癒リスクと傷害の機序

喫煙者では創離解や創感染などの創関連周術期合併症が発生しやすい、と臨床医は感じている。大半の研究でも、そのことを裏付ける結果が得られている。創関連周術期合併症のリスクが最も大きいのは、美容形成手術(しわ取り)のように、皮切が大きい手術である。動物モデルを用いた実験では、喫煙によって創関連合併症は増えることが明らかにされている。ただし、興味深いことに、血管吻合を要する遊離皮弁の生着率には、喫煙の影響は認められないという結果が得られている。

創傷治癒の障害には複数の機序が関与していると考えられているが、その中でも創傷治癒の重要な決定要素である組織酸素化を妨げる因子に特に注目が集まっている。ニコチンや一酸化炭素などのタバコ煙含有物質は、末梢血管を収縮させたり、ヘモグロビンの酸素運搬能を低下させたりして、組織の酸素化を妨げる。慢性ニコチン曝露動物モデルを用いた研究では、皮弁の生着が障害されることが分かった。ただ、この研究における血漿ニコチン濃度は喫煙者の濃度より高く、また、ニコチン補充療法注の患者の血漿ニコチン濃度より遙かに高かった。創傷治癒遅延は、少なくとも2週間ニコチンに曝露された場合にはじめて現出する。つまり、ニコチンによる急性血管収縮によって創傷治癒が障害されるわけではないことが伺われる。喫煙関連創合併症には、他にもいくつかの原因が関わっていると考えられる。タバコ煙含有物質は、線維芽細胞や免疫細胞などの、創傷治癒において重要な働きを発揮する細胞の機能に直接的に影響を及ぼすようである。これらの細胞の多くには、ニコチン性アセチルコリン受容体が発現しているので、ニコチンが直接的に作用し、細胞反応が阻害され傷害が引き起こされうる。だが、ニコチンの直接傷害作用についての研究では、生体内ではあり得ないような高濃度のニコチンで研究が行われている。最近の研究では、ニコチンを創部局所に塗布すると、血管新生が刺激され創傷治癒が促進される可能性があることが明らかにされている。喫煙による微小血管疾患では、一酸化窒素などの物質が減ることによって血管新生が障害されることが分かっている、一酸化窒素は創傷治癒における重要物質の一つである。ニコチンは、組織傷害に対する炎症反応のうち、神経系が関与する部分に変化を及ぼす。この変化は、末梢および中枢神経メカニズムの両者に対する直接作用と、交感神経系のトーンに対する間接的作用を介して現れる。ニコチンの投与法(例;投与経路、単回大量vs少量持続)や投与量によって、神経原性炎症の指標が増えることもあれば減ることもあるので、ニコチンが炎症反応に及ぼす作用の臨床的な影響ははっきりしていない。

喫煙者では、骨の治癒も創傷治癒と同じく妨げられている。喫煙の有無は、脊椎固定術における癒合不全の危険因子である。術後も喫煙を続けている場合は、特に危険が大きい。喫煙は、骨代謝に大きな影響を与えるとともに、骨粗鬆症の主な危険因子の一つでもある。骨粗鬆症事態も、骨治癒遅延の一因である。創傷治癒の場合と同様に、骨治癒の障害に関わっているタバコ煙含有物質が何なのかは未解明である。だが、ニコチン濃度が比較的高いと、骨代謝の複数の指標に有意な変化が現れることが分かっている。一方、ニコチン単独では骨の成分にはほとんど変化が認められないことを示す動物実験もある。また、脊椎固定術動物モデルを用い比較的高濃度のニコチンの影響を評価した実験では、骨癒合に関する主観的指標は悪化したが、客観的指標については変化は見られなかった。

教訓 タバコ煙含有物質は、線維芽細胞や免疫細胞などの、創傷治癒において重要な働きを発揮する細胞の機能に直接的に影響を及ぼすようです。
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コメント 2

キコさま

今週も引き続き私にとって恐ろしいレポート翻訳、稲川淳二の怖い話よりもリアルな恐怖をどうもありがとう。背筋がゾクゾクしてエアコン代が節約できそうです。

加圧トレーニングを始めてきっちり1年。
体型体組織に驚くほど変化が現れないのは「喫煙」のせいでしょうか?
否。加圧は大して効果がないって話も…。私の脳は人一倍騙され難いのかもしれません。
by キコさま (2009-07-27 14:12) 

vril

私も「カーツ」を買いましたが、今やクローゼットで眠っています。加圧は、すごく気持ち悪くなるので、続けられませんでした。一年も続けてるなんて、すごいね。スキーショップでカーツを買った私は、このトレーニングによって筋肉をつけて華麗にキレる滑りを実現しようと目論んでいました。「成長ホルモン」とか、「嫌気性代謝」とか言われると、ふらふらふら~っとひっかかっちゃうんだよね。反省、反省。

現在までの私の経験によれば、体型をととのえ健康を維持するのに最もよい方法は、ランニング+肉食を減らす、です。
by vril (2009-08-01 08:37) 

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