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横紋筋融解症と急性腎傷害~腎の病態 [critical care]

Rhabdomyolysis and Acute Kidney Injury

NEJM 2009年7月2日号より

横紋筋融解症の腎における病像

急性横紋筋融解症の患者に一般的に認められる所見は、色素顆粒円柱、赤茶色の尿上清および血清CKの著増である。血清CKの値がどれほど上昇したら、急性腎傷害発生リスクが高いと判定できるのか、明確な基準はない。CK最高値または血清クレアチニン最高値と急性腎傷害発生頻度とのあいだにはごく弱い相関しかない。入院時CKが15,000~20,000U/L未満であれば、横紋筋融解症による急性腎傷害のリスクは概ね低いと考えてよい。CKが5000U/L程度の低い値であっても急性腎傷害が発生することはあるが、通常は、敗血症、脱水、アシドーシスなどが合併している場合に限られる。例えば、筋ジストロフィー、炎症性ミオパチー(筋炎)などの慢性ミオパチー患者では、他の病態が合併しない限り、横紋筋融解が起こっても急性腎傷害が発生することはまずない。慢性ミオパチー患者では、血漿ミオグロビン濃度が中等度上昇を示すことがあるが、明らかなミオグロビン尿を呈することはない。尿試験紙による検査は潜血陽性で、尿沈渣では赤血球が認められない場合は、ミオグロビン尿が疑われる。尿試験紙で潜血が擬陽性になるのは、試験紙ではミオグロビンとヘモグロビンを区別して検出することができないからである。横紋筋融解症における尿試験紙(潜血)の感度は80%である。診断に当たっては、着色尿をきたす他の原因についても考慮しなければならない(Table 2)。横紋筋融解症による急性腎傷害の原因物質は、まさしくミオグロビンである。しかし、尿または血漿中のミオグロビンの直接測定はほとんど行われない。血清ミオグロビン濃度のピークは、血清CK濃度がピークに達するよりかなり前である。また、血清ミオグロビンの代謝は急速で、しかも予測が困難である。ミオグロビンは、一部は腎で代謝されるが、大部分は腎以外の臓器(おそらく肝臓と脾臓)で代謝される。したがって、血清ミオグロビンは、横紋筋融解症の診断においては感度が低いのである。

横紋筋融解症による急性腎傷害では、他のタイプの急性腎傷害と比べて血漿クレアチニンが急激に上昇することが多い。しかし、この傾向は、横紋筋融解症の患者には、若くて筋肉質の男性が多いことを反映しているに過ぎないと考えられる。同様の理由で、横紋筋融解症の患者では、BUN/クレアチニン比が低いことが多い。横紋筋融解症による急性腎傷害では乏尿が認められる頻度が高く、時として無尿になることもある。

横紋筋融解症による急性腎傷害と、他の原因による急性尿細管壊死とを分かつ特徴的所見は、横紋筋融解症では全例ではないにせよ大多数の症例で、尿中ナトリウム排泄率が低い(<1%)ことである。尿細管壊死ではなく、糸球体に入る前の血管収縮と尿細管閉塞が主病態であるからだと考えられる。尿中ナトリウム排泄率とは、腎で濾過されたナトリウムのうち尿中に排泄されたナトリウムの割合を示す。急性腎傷害患者の尿中ナトリウム排泄率が低い場合は、尿細管機能が比較的よく保たれていることを意味する。虚血または毒性物質による急性尿細管壊死では、尿中ナトリウムが増加し、尿中ナトリウム排泄率も上昇する。

横紋筋融解症による急性腎傷害では、細胞内容物が漏出するため電解質異常が発生することが多い。そして、電解質異常がひどいほど、急性腎傷害は重症である。電解質異常は、急性腎傷害に先立って現れることがあるので、横紋筋融解症の診断がついたら直ちに電解質をしらべるべきである。横紋筋融解に伴う電解質異常は、高カリウム血症(急速に進行することがある)、高リン血症、高尿酸血症、高アニオンギャップ性代謝性アシドーシスおよび高マグネシウム血症(腎不全に陥ったとき)である。リン酸が増えるとカルシウムと結合し、この化合物が軟部組織に沈着することがある。さらに、高リン血症があると、1α-ヒドロキシラーゼが阻害され、カルシトリオール(1, 25-ジヒドロキシビタミンD3;活性型ビタミンD)が生成されなくなる。高カリウム血症は、横紋筋融解症の初期から認められる。外傷性、非外傷性のどちらであれ、致死的な高カリウム血症に至ることもある。横紋筋融解症では一般的に、損傷筋肉から核酸が放出され、高尿酸血症が見られる。尿酸は不溶性なので、増えすぎると尿細管が閉塞することがある。特に尿が酸性だとこの傾向が強くなる。

横紋筋融解症では、多くの場合、低カルシウム血症が認められる。この原因は、虚血に陥ったり損傷されたりした筋細胞へのカルシウム流入や、壊死筋肉が石灰化する過程でリン酸カルシウムとなってカルシウムが消費されることである。腎機能の回復に伴う高カルシウム血症は、横紋筋融解症による急性腎傷害に特有の特徴である。筋肉にたまっていたカルシウムが血中に戻ってきたり、高リン血症が改善したり、カルシトリオールが増えたりして、高カルシウム血症になるのである。

教訓 急性横紋筋融解症の患者に一般的に認められる所見は、色素顆粒円柱、赤茶色の尿上清および血清CKの著増です。尿試験紙による検査は潜血陽性で、尿沈渣では赤血球が認められない場合は、ミオグロビン尿が疑われます。横紋筋融解症では、大多数の症例で、尿中ナトリウム排泄率が低いのが特徴です。

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