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横紋筋融解症と急性腎傷害~病因 [critical care]

Rhabdomyolysis and Acute Kidney Injury

NEJM 2009年7月2日号より

ミオグロビンによる急性腎傷害の病因

ミオグロビン尿は横紋筋融解が起こったときにしか発生しない。ミオグロビンは暗赤色をした17.8kDaのタンパクで、糸球体で100%濾過され尿細管上皮細胞に取り込まれ(endocytosis)、代謝される。血中ミオグロビンが0.5~1.5mg/dL以上に達すると、腎による処理能力の閾値を超えるので尿中にミオグロビンが出現する。血清ミオグロビン濃度が100mg/dL以上になると、尿が赤茶色(「紅茶色」)であるのが肉眼的にも確認できるようになる。つまり、横紋筋融解が起こったからといって、必ずしもミオグロビン尿が観察されるわけではない。

横紋筋融解によって糸球体濾過率が低下する機序の詳細は、まだはっきりとは分かっていない。実験では、腎内血管の血管収縮、直接的および虚血性尿細管傷害および尿細管閉塞のすべてが関与していることが分かっている(Fig. 2)。ミオグロビン濃度は尿細管の遠位になるほど高くなり、血管内容量が低下したり腎血管が収縮したりすると、ミオグロビンの濃縮が一段と進む。尿が酸性であると、ミオグロビンがTamm-Horsfallタンパクと反応し、尿細管傷害が増悪する。尿細管閉塞はたいていの場合、遠位尿細管で発生するが、ミオグロビンによる直接的な尿細管細胞毒性が発現する舞台は近位尿細管である。

尿が酸性に傾いていなければ、ミオグロビンにはそれほどひどい腎毒性作用はないと考えられている。ミオグロビンはヘムタンパクであり、2価鉄イオンを含有する。ヘムタンパクが酸素分子と結合するには、2価鉄イオンは必須である。しかし、酸素分子は酸化を促進するので、2価鉄イオンは3価鉄イオンになりやすい。すると、水酸化ラジカルが生成される。この一連の作用は、細胞内の抗酸化物質が適切に働くと抑制される。だが、ミオグロビンが細胞から放出されると各種活性酸素が無秩序にあふれ出し、フリーラジカルによって細胞が傷害される。ヘムと、遊離鉄の作用で生成される水酸化ラジカルは、尿細管障害における重要なメディエイタである。デフェロキサミン(鉄キレート剤の一つ)とグルタチオンには、ヘムと水酸化ラジカルの作用から尿細管を保護する働きがある。最近になって、ミオグロビン自体にペルオキシダーゼに似た酵素活性があることが分かった。ペルオキシダーゼがあると、生体分子の酸化、脂質の過酸化およびイソプラスタン(脂肪酸の酸化によって生じるプロスタグランジン様化合物で酸化ストレスマーカとなる)の生成がとめどなく進む。

腎血管収縮は、横紋筋融解による急性腎障害の特徴であり、複数の機序の多彩な組み合わせの結果発生する。第一に、損傷した筋肉内に水分が貯留することによって血管内容量が減少すると、ホメオスタシスが働き、レニン-アンギオテンシン系、バソプレシンおよび交感神経系の活性化が促進される。第二に、腎血流量の減少には、エンドセリン-1、TXA2、TNF-α、F2イソプラスタンなどの血管作動性メディエイタが関与していることが実験で明らかにされている。腎微小循環中にミオグロビンが存在するとNOが減少し、血管拡張作用が低下するのだが、このこともまた、腎血流量低下の一因であることが分かっている。酸化傷害と、内皮機能障害による白血球を介した炎症によって、以上のメディエイタの局所での生成が刺激されるようである。内皮機能障害は、横紋筋融解以外の原因による急性腎傷害でもよく認められる所見である。

教訓 横紋筋融解によって糸球体濾過率が低下する機序の詳細はよく分かっていませんが、腎血管の血管収縮、直接的および虚血性尿細管傷害および尿細管閉塞が関与しているようです。尿が酸性だと、ミオグロビンによる尿細管傷害がひどくなります。尿細管閉塞はたいていの場合、遠位尿細管で発生します。ミオグロビンの毒性が発現する舞台は近位尿細管です。
コメント(2) 

コメント 2

k1sh

ありがとうございます。
熱中症における、横紋筋融解症で、
なぜアルカリ化尿がよいのか、
ということが色々調べても分かりませんでした。
結局のところは、詳細はまだ分かってないけれど、
ここで読ませていただいたようなことが
起こりうるということで、認識させていただきます。
ありがとうございました。
by k1sh (2009-11-19 17:51) 

vril

コメントをいただき、ありがとうございます。横紋筋融解症による急性腎傷害の全体像は、分かっている範囲だけでもかなり複雑ですよね。もっと詳しく機序が解明されれば、新しい治療法も登場するかもしれませんね。
by vril (2009-11-19 22:52) 

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