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溺死最新情報2009~定義 [anesthesiology]

Drowning: Update 2009

Anesthesiology 2009年6月号より

定義

溺れた人をあらわす用語については、大きな混乱がある。Dorland’s Medical Dictionaryによれば、溺水とは「水またはその他の物質や液体が肺に充満しガス交換が不能になり、窒息または死亡すること」と定義されている。しかし、溺水被害者が誤嚥している水の量は比較的少ないことが多く、肺が「水で充満」することは滅多にない。さらに、溺水(drowning)は溺れて死ぬことを意味するが、実際は、多くの溺水被害者には蘇生が行われ助かる。そこで、溺死と溺水とをもっと正確に反映した定義が1971年に提唱された。誤嚥のない溺死とは、水没中に気道閉塞や窒息に陥り死亡することである。誤嚥を伴う溺死は、水没して水を誤嚥することにより窒息し死亡することである。誤嚥のない溺水は、水没により窒息したものの、少なくとも当初は生存することを指す。誤嚥を伴う溺水は、水中またはその他の液体中に沈み、水またはその他の液体を誤嚥したものの、少なくとも当初は生存することを意味する。

2002年にオランダ、アムステルダムで開催された溺水世界会議では、多くの専門家が、上記の用語は混乱を招きかねないという意見を示した。心静止の状態で水中から救助され、CPRにより蘇生に成功した場合を想定すると、前述のような定義はとりわけ適用が困難である。上述の定義によれば、このような被害例では、救助された時点では「溺死」に当てはまるが、CPR後には「溺水」と分類し直さなければならなくなる。その後、この被害者が死亡したとすれば、「溺死」のため死んだのか、「溺水」のため死んだのか、判然としない。このような状況を受け、2003年のCirculation誌上において、「溺水」と「溺水の経過」について以下のような新しい定義が示された。

溺水(Drowning)
液体中に沈む/浸かることを主因とする呼吸障害が発生する経過全体を溺水と言う。この定義が暗に意味しているのは、被害者の気道入り口部に液体/空気境界面が存在し、息ができなくなっているということである。被害者はこの段階を経た後に、生きることもあれば死ぬこともある。転帰はどうあれ、この状況があったのであれば、被害者は溺水事故に遭ったことになる。

溺水の過程
溺水の過程は連続的で、まず被害者の気道が液体(通常は水)表面より下に位置することから始まる。この時点では、被害者は自発的に息をこらえる。息こらえに引き続き、液体が口咽頭または喉頭に入ってくることにより喉頭痙攣が発生する。これは不随意的な現象である。息こらえおよび喉頭痙攣の間、被害者は呼吸することができない。その結果、体内の酸素が減り、二酸化炭素は除去されない。すると、高二酸化炭素血症、低酸素血症、そしてアシドーシスに陥る。この間溺水者は、多くの場合、多量の水を飲んでしまう。そして、呼吸努力が非常に活発になることもあるが、喉頭レベルにおける閉塞のため、息をすることはできない。動脈血酸素分圧がさらに低下すると、喉頭痙攣がおさまる。すると溺水者は、自ら液体を吸入してしまう。誤嚥する液体の量は、被害者によって大きな差がある。肺、体内水分、血液ガス分圧、酸塩基平衡および電解質濃度に変化が生ずる。誤嚥した液体の蘇生および量と液体中に沈んでいた時間が、この変化の程度を左右する。以上の定義をCirculation誌上で発表したのと同じ著者らが、2006年に「溺水ハンドブック(Handbook on Drowning)」を発行した。この本には、ここまで述べた「溺水」と「溺水の過程」の定義が、やや簡略化されて掲載されている。

サーファクタントの流失、肺高血圧およびシャントも低酸素血症の発生に関与している。被害者が冷水に水没した場合では、さらに、低温ショック応答などの生理学的異常が起こることがある。10℃以下の水による溺水では、血圧上昇および頻脈性不整脈といった循環器系の異常が発生しやすい。低温ショック応答によって、反射性喘ぎ呼吸の発生が促され、過換気になる。この反応は水中でも起こりうる。

被害者は、溺水の過程のいずれかの段階で救出され、何ら処置を必要としないこともあれば、適切な蘇生処置が施されることもある。適切な処置が講じられれば、溺水の過程はそこで中断される。速やかに換気を開始しなければ、いずれ循環停止に至る。それでも有効な蘇生処置が開始されなければ、多臓器不全から死に行き着く。その主因は組織低酸素である。病院に収容された溺水被害者の死因の最も多くを占めるのは、低酸素脳症である。

溺水事例には一つとして同じものはない。誤嚥した水の組成、温度および量はそれぞれ異なるし、被害者の溺水以前の健康状態も重要な要素である。非常に冷たい水による溺水では、急速に低体温になるので、被害者の酸素需要量は減る。そのため、長時間水没していても完全な生還を遂げることがある。一方、極度の低体温に陥ると、心臓の刺激伝導が著しく遅延したり、不整脈や心停止を起こしたりすることもある。さらに、冷水(0℃から15℃)に浸かると、分時換気量が増えて息こらえ可能時間が短縮する。すると、「潜水反射」の効果が打ち消され、溺死する可能性が上昇する。

教訓 液体中に沈む/浸かることを主因とする呼吸障害が発生する経過全体を溺水と言います。生死の別は問いません。溺水の過程: ①気道が水面下に位置する ②息こらえ ③喉頭痙攣 ④高二酸化炭素血症、低酸素血症、アシドーシス ⑤低酸素血症になり、喉頭痙攣がおさまる ⑥誤嚥 
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