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気切のタイミングと長期予後~緒言 [critical care]

The effect of tracheostomy timing during critical illness on long-term survival .

Critical Care Medicine 2008年9月号より

気管切開はICUで行われるありふれた手技で、経皮的アプローチであれば比較的容易に行うことができる。人工呼吸を要するICU入室患者のうち2-11%に気管切開が行われる。気管切開が行われた患者では、人工呼吸の全実施期間の約26%、入院期間の最高14%を気管切開下に管理される。気管切開を行うと、喉頭部の不快感が緩和され、呼吸抵抗が低下し、排痰が促され、患者との意思疎通が可能となり、鎮静が不要となる。しかし、気管切開には、気管切開部からの出血や感染、縦隔気腫、気胸、気管軟化症、気管食道瘻などの合併症があり、心房瘻のような致命的事態が発生することもある。

気管切開の最適実施時期については、議論が紛糾している。フランスおよびUKで行われた調査の結果は、実施時期、気管切開適応のいずれについても一致していない。National Association of Medical Directors of Respiratory Careは、ICU入室後、人工呼吸管理を開始し21日が経過した時点で例外なく気管切開を行うべきであるという強い勧告を表明している。一方、American Association for Respiratory Care, American College of Chest Physiciansおよび American College of Critical Care Medicineが合同で策定したガイドラインでは、人工呼吸が長期におよぶ場合には気管切開を考慮すると記されているのみで、特定の実施時期は明記されていない。

気管切開に関する小規模な観測研究数編で、早期気管切開に利点がある可能性が指摘されている。たとえば、速やかな人工呼吸器離脱やICU滞在日数の短縮などの有効性が示されている。しかし、いずれも単一施設における研究であるのが難点である。より対象患者数の多い、緻密に設計された遡及的解析では、気管切開実施時期による死亡率低下効果は認められていない。以上の研究ではいずれも、生存群における治療群割り付けに伴うバイアスは生じていない。生存群における治療群割り付けに伴うバイアスが生ずると、当該治療群(早期気管切開)が有効であるという結果が出るように作用する。残念ながら、過去に行われた全ての遡及的研究では、気管切開が実施時期によって転帰が変化するような手技であるということを示すには至らなかった。これらの研究では、晩期気管切開に有利な結果が出やすい研究手法が採用されていた。なぜなら、「早期」気管切開が実施された患者は、「晩期」に気管切開を行われた患者よりも早い段階で危篤状態に陥いっていることが多いからである。生存群における治療群割り付けに伴うバイアスは、遡及的研究では時間依存性変数を用いた比例ハザードモデルを用いると排除することができる。

気管切開の時期が死亡率に与える影響について検討した過去最大規模のメタ分析では、無作為化比較対照試験5編、総計406名の患者を対象とし、解析が行われた。早期(2-7日)および晩期(8-16日または取り決めなし)の定義については論文間で大きな隔たりが認められた。対象患者の背景因子にもばらつきがあった(頭部外傷、外傷、術後、内科、熱傷)。早期気管切開による死亡率の有意な変化は認められなかった(0.27 vs 0.37; RR0.79)。しかし、人工呼吸期間は約8.5日、ICU滞在期間は約15.3日短縮した。

オンタリオに所在する複数施設で、背景因子の異なる多数の患者を対象に、ICUにおける気管切開後の転帰についての研究を実施する無二の機会が得られた。対象患者数が多ければ、死亡率のわずかな差も検出することができる。本研究では、人工呼吸患者における気管切開実施時期と生存率の関係を評価した。我々の疑問は、人工呼吸を要するICU患者に対し、気管切開を早期に行うと長期生存率が向上するか?ということである。(つづく)

教訓 気管切開の最適実施時期はまだよく分かっていません。


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