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消化管除菌と口腔咽頭除菌~考察 [critical care]

Decontamination of the Digestive Tract and Oropharynx in ICU Patients

NEJM 2009年1月1日号より

考察
オランダに所在するICUに入室した患者を対象に、SDDおよびSODの評価を行った。SDDやSODを行わない従来法と比べ、28日後死亡率の絶対減少率はSDDで3.5パーセントポイント、SODで2.9パーセントポイントであった(相対減少率はそれぞれ13%、11%)。各治療法を実施するにあたり余分に要した医療費はSODには1米ドル、SDDには12米ドルである。SDDやSODに伴い、耐性菌の発生やクロストリジウム・ディフィシル毒素検出率の増加は見られなかった(ただし、本研究を行った比較的短い期間においての話ではあるが)。しかし、SDDおよびSODの有効性は共変量調整後にようやく浮き彫りにされた。今回は研究期間が短かったため、投与した抗菌薬が細菌叢に与えた影響を評価することはできなかった。

本研究の強みは、実情に即した方法で多施設交叉試験を行い、患者登録率も監視したことである。全体では、研究対象候補患者のうち89%が実際に登録された。患者ごとの無作為化割り当てを行うと、ある割り当て群に属する患者の治療法が、他の割り当て群に属する患者の治療法に影響を及ぼす可能性がある。そのため、クラスタ無作為化を採用した。よって、割り当て群を隠蔽することはかなわなかった。どの順番で各治療法が割り当てられるかは周知されることはなかったが、患者ごとの無作為化割り当てを行ったわけではなく、研究対象患者の治療を担当する医師は割り当てられた治療法を知った上で患者を管理した。担当医師に割り当て群が分からないようにするのは不可能である。施設間または時期によって患者登録の様態が異なるために生ずる選択バイアスが発生するリスクを抑える目的で、患者登録率を頻繁にチェックした。さらに、客観的な患者登録基準を用い、各研究参加施設には患者登録率についての情報を逐次伝えるという対策を講じた。それにも関わらず、基準時点の患者特性は、従来法群とSDD群およびSOD群とで異なっていた。具体的には、後二群の患者の方が、高齢で、気管挿管されている患者が多く、外科系患者が少なく、APACHEⅡスコアが高かった。この違いは偶発的に生じたものではなく、結果的に、転帰に関する粗データと調整データの食い違いにつながった(Table2)。

今回の研究では、SDDまたはSODによって好ましくない細菌を除去するという目的は遂げることができた。SDD実施期間においては、全患者にセフォタキシム(クラフォランⓇ)を静脈内投与し、呼吸器および腸管のグラム陰性菌定着を防ぐという目論見を実現することができた。Stoutenbeekらをはじめとする他の複数の報告と比べると、腸管および口腔咽頭内のグラム陰性菌除菌率は低かった。SDD実施期間およびSOD実施期間ともに、耐性グラム陰性菌の発生率は従来法群実施期間よりも低かった。この結果は、Jongeらをはじめとする他の複数の報告と同等である。Jongeらなどの報告では、耐性菌の発生が少ない状況(施設)では短期間のSDDによる耐性菌の選択や誘導は起こらないとされている。しかし、多剤耐性グラム陰性菌やMRSAなどの耐性菌が蔓延している状況では、SDDを行うと当該細菌の選択が一層深刻化すると報告されている。

本研究の問題点は、当初予定した解析方法が研究計画にふさわしくなかったことである。今回の解析と同様の手法はクラスタ無作為化試験のデータ評価には広く用いられているのだが、これは不正確な結論を導きやすい方法なのである。今回のような解析方法で得られた結果は信頼性に疑義があると言われている。我々は、適切ではない解析方法でそのまま研究を進めるのか、それとも新しい解析方法に舵を切るのかという選択を迫られ、後者を取るという決断を下した。当初計画の通り主要評価項目を院内死亡率としていたとすれば、基準時点における患者特性の偏りを調整した後でも、SDD群とSOD群のあいだに差を見出すことはできなかったであろう(Table2)。SDD群、SOD群ともに、院内感染の起因菌として重要視される細菌による菌血症のICUにおける新たな発生を有意に減らすことが明らかになり、本治療法の有効性が確認された。ただし、従来法とSDDおよびSODを多重比較したことにより第一種の過誤が発生する可能性が上昇した点を留意しなければならない。

本研究ではSODはSDDと同等の生存率改善効果を示したため、消化管除菌目的でセフォタキシムを4日間静脈内投与することの意義に疑問が呈される。ICUでは耐性菌の発生が常に憂慮されるため、SDDよりはSODの方が現実的でよいと思われる。SDDではセフェム系薬を全身投与し局所投与の抗菌薬が少ないため、長期的展望に立つと、耐性菌が選択され拡大する危険性が大きいであろう。また、耐性菌が蔓延している場合には、クロルヘキシジンなどの消毒薬を用いた口腔咽頭内の除菌がSODに代わる選択肢となり得る。

教訓 SODとSDDでは有効性はほぼ同じでした。SDDではセフェム静脈内投与を行うので、ICUで長期的に広く行うとすれば、SODの方がよさそうです。

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