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オバマ候補の医療制度改革 [misc]

NEJM 2008年10月9日号より

Modern Health Care for All Americans    Barack Obama

医師およびその他の医療従事者は、他を圧倒するほど長時間働き、比類なき優れた能力を有している。しかし、彼らの正当な医学的判断が、現在の医療制度の中では往々にして正しく反映されてはいない。全ての米国民が、良質な医療を妥当な費用で受けられるようにしなければならない。医療改革で強調すべきは、疾病の予防、医療過誤および医療過誤紛争発生件数の減少、そして医療が正当に報われるようにすることである。私の医療制度案は三つの信条に基づいて設計されている。第一に、全ての米国民に医療アクセスを保証し、誰もが現代医療の恩恵を享受することができるようにしなければならない。第二に、現行の医療体制に蔓延する無駄を排除しなければならない。無駄とは、無益な官僚主義、検査や手技の重複実施、医師が訴訟を恐れるあまり行われている不必要なケア、などを指す。第三に、疾病予防と健康増進に資する公衆衛生領域の社会基盤が必要である。私の医療制度案では、現在の医療保険に不満がない場合は、何ら変更なくその保険を継続することが可能であり、保険料負担のみが安くなる。一方、現在無保険であるか、標準以下の医療保険でカバーされている場合は、十分な給付内容の医療保険が妥当な費用で得られるような選択肢を提供する。中小企業の被雇用者でも大企業と同等の私的保険を得ることが可能になる。議員とその家族に付与されているのと同等の給付内容の新しい公的保険の選択肢も用意する。すべての保険会社は、既往歴に関係なく誰をも被保険者として受け入れなければならない。中産階級の人々が妥当な保険料負担で医療保険に加入できるようにするために、医療システムの無駄を省き、ブッシュ現大統領が実行した富裕層を対象とした減税を廃止する。適切な医療供給システムを構築しない限り医療制度改革は成功しない。医師には莫大な経営管理の負担がのしかかっているのが現状である。これは医療費高騰の一因であるとともに、医療の質の改善につながらないような負担が医療現場に課されていることを意味する。米国の医師は医療過誤紛争の当事者になるのではないかと常に憂慮しながら診療に当たっている。

私は、従来の医療制度を現代にふさわしい効率的なものとするために、患者の転帰を改善するという目標を見据え抜本的な改革を実施する所存である。私の改革案では、情報技術に年間100億ドルを5年間投資する計画である。この予算配分の目的は、医療記録と会計の新しいシステムの構築である。これによって医療過誤や検査の重複が減少することが見込まれ、結果的に全医療費を長期的には削減することができる。さらに、有機的で協調的なケアの実施、症例管理による治療の最適化、新しいケア提供モデルなどに対して正当な報酬を与えなければならない。医療報酬の改革は、患者の転帰を改善し、全医療費を削減するようなものでなければならない。対立候補(マケイン氏)と違い、私は医師報酬削減案には反対した。医師に責を求めるようでは医療制度を改革することはできない。米国の医学教育は世界随一の質を誇っているが、医師が全職業人生を通じて、最新の良質な医学情報をいつでも得られるようなシステムを作らなければならない。薬剤、医療機器、治療法および手技の有効性についての評価を行うとともにその情報を発信する、独立した公的機関を医学界と協力して設立することも、私の医療制度案の一つである。若い医師がプライマリケアを志すことを促す機運が乏しい現状を鑑み、奨学金、ローン返済補助、報酬増額などによる誘導も考えている。ブッシュ政権下で大打撃を受けた生物医学研究分野への補助も行う。そして、医療過誤に対する取り組みにおいては医療ミスの予防を最大の目標とする。情報技術および意思決定補助に関する技術に対する投資によって、医療ミスや過失の一部と、これらによる医療訴訟を減らすことができる。我々は医療が正当に報われるものとなるように軌道修正しなければならない。予防医療は私の医療改革案の中心的な一翼を担う。患者は禁煙、運動、正しい食生活による適正体重の維持などの努力を払わなければならない。雇用主は健康的な職場環境の保全に努め、従業員が活動的かつ健康的なライフスタイルを維持できるよう援助しなければならない。この点については政府にも役割がある。私の医療制度案では、喫煙や肥満などの公衆衛生の重要課題に取り組むための地域密着型プログラムの実現に予算を投ずる計画である。

今回の大統領選挙は我が国の医療制度に多大な変化をもたらすものとなる。私が大統領に就任した暁には、現代という時代にふさわしい医療供給システムの構築を図り、全国民が妥当な費用負担で良質の医療を受けることができるような医療アクセスを保証する。米国民、特に我々の健康を守るため懸命に働いている医療関係者諸氏の助力と協力によって、医療制度改革が現実のものとなることを私は確信している。

感想 米大統領選がいよいよ一週間後に迫りました。マケイン候補の医療制度改革案も掲載されていましたが、オバマ候補が勝利しそうなのでこちらだけ抄訳しました。この次の号(NEJM 2008年10月16日号)には、オバマ案は「対症療法にはなるが根治は無理」という論評が掲載されています。資本主義が崩壊しそうな勢いですから、ここで述べられているような予算配分自体が無理かもしれません。クリントン時代と同様にFamily Medicineに人が集まるようになる(集まらざるを得なくなる)可能性は高そうです。
コメント(2) 

コメント 2

ブリブリ

予測見事に当たりましたね!
さて、貴殿の翻訳されたこのオバマの文章が、これで生きてくるわけです。

ところで、資本主義が崩壊するってほんとですか?
by ブリブリ (2008-11-05 16:51) 

vril

お褒めにあずかり光栄です。ありがとうございます。ここ数日、Sen. McCainがかなり追い上げていると報道されていたので、予測が外れるかもしれないと思っていました。

巷間伝え聞くところによると、資本主義は共産主義が崩壊したのと同じように2010年前後にあっけなく瓦解するらしいですよ。米国の経済政策はリバタリアニズムからガルブレイス方向へ大きく舵を切りそうです。資本主義が崩壊しないまでも、ゴリゴリの資本主義は少なくともしばらくは姿を消すのではないでしょうか。



by vril (2008-11-05 18:39) 

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