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急性肺傷害の輸液管理 少なめvs多め [critical care]

NEJM 2006年6月15日号より

Comparison of Two Fluid-Management Strategies in Acute Lung Injury
The National Heart, Lung, and Blood Institute Acute Respiratory Distress Syndrome (ARDS) Clinical Trials Network

 毛細血管透過性亢進による肺水腫は急性肺傷害のもっとも特徴的な所見であり、血管内静水圧上昇および膠質浸透圧低下により増幅される。急性肺傷害における最適な輸液管理法は未だ確立されていない。我々は、前向き無作為臨床研究を行い、急性肺傷害患者を血管内圧(PAOPまたはCVP)が低い群と高い群に分けて二つの輸液管理法の利点と欠点について調査した。一次転帰は60日後の死亡とした。

 患者を制限輸液群または大量輸液群に無作為に割り当てた。同時に2×2分割に従い肺動脈カテーテル使用群または中心静脈カテーテル使用群に無作為に割り当てた。挿管され陽圧換気で管理されておりP/Fが300未満(標高1000m以上では補正)、胸部写真で両側浸潤影を認め左房圧上昇の徴候がない患者を研究対象として選択した。

 無作為化割当から1時間以内にARDS Network低一回換気量プロトコルに準拠した人工呼吸管理を開始し第28日まで継続した。人工呼吸離脱もプロトコルに添って実施した。無作為化割当から4時間以内に該当するカテーテルを挿入した。カテーテル挿入から2時間以内に決められた血行動態管理を開始し、7日間もしくは人工呼吸器離脱12時間後まで継続した。心血管系、腎臓、肝臓、凝固系の障害および人工呼吸の要否を毎日評価した。肺傷害の重症度はMurrayらの方法によって点数化して表した。この方法はゼロから4点までの点数で重症度を表し、点数が低いほど肺機能が良いことを示す。

 本研究では北米の20施設で2000年6月8日から2005年10月3日までに診療を受けた患者を審査し1001名が対象となった。制限輸液群の方が大量輸液群よりフロセミド使用頻度が高く(41% vs 10%, P<0.001)、反面、輸液ボーラス投与の頻度は大量輸液群の方が高かった(15% vs 6%, P<0.001)。フロセミド使用量は制限輸液群の方が多かった。制限輸液群の29%、大量輸液群の39%において少なくとも一度輸血が行われた(P<0.001)。全期間を通じ、大量輸液群の方が制限輸液群より輸液量が有意に多く、第1日から第4日までは大量輸液群の方が尿量が少なく、そのため水分出納の総計が大きかった。7日間水分出納総計は、制限輸液群が-136±491mL、大量輸液群が6992±502mLであった(P<0.001)。血圧は、制限輸液群では低下し、大量輸液群では概ね変化を認めなかった。制限輸液群は大量輸液群と比べ、平均動脈圧、一回拍出量および心係数がわずかながら低かったが、心拍数、混合静脈血酸素飽和度、昇圧薬使用患者の割合については両群で同等であった。無作為割当時にショックであった患者は、両群とも約40%がその後の測定でもショックの基準を満たしていた。基準時点においてショックでなかった患者の研究開始以降のショック発症頻度については有意差を認めなかった(大量輸液群32%、制限輸液群28%, P=0.29)。制限輸液群の方が肺損傷スコアが低く酸素化指標が良好であるとともに、プラトー圧およびPEEPが低かった。全期間を通じ制限輸液群は大量輸液群よりもクレアチニン値がわずかに高かったが、有意差は認められなかった(P=0.06)。BUN、ヘモグロビン、アルブミン、重炭酸、膠質浸透圧の理論値については、制限輸液群の方が全期間を通じ高値を示した。代謝性アルカローシスおよび電解質異常は有害事象として報告された。これらの有害事象は大量輸液群(19例、うち1例は重篤)より制限輸液群(42例、うち3例は重篤)に多く発生した(P=0.001)。

 無作為化後60日間の院内死亡率は、制限輸液群が25.5±1.9%、大量輸液群が28.4±2.0%であった(P=0.30)。制限輸液群の方が無作為化後28日間の人工呼吸器非使用日数、中枢神経系に異常を認めない日数、ICU非在室日数が長かった。中枢神経系以外の臓器不全については両群間に差はなかったが、当初7日間の正常循環動態日数は大量輸液群の方がわずかに長かった(0.3日)。当初60日間に血液浄化法を施行された患者数(制限輸液群10% vs 大量輸液群14%, P=0.06)、血液浄化法実施日数(11.0±1.7 vs 10.9±1.4, P=0.96)にはともに有意差は認められなかった。

 一次転帰である60日後死亡率については制限輸液群と大量輸液群の間に有意差を認めなかったものの、制限輸液群の方が肺機能を改善し、人工呼吸管理日数を短縮し、肺以外の臓器障害を増すことなくICU滞在日数を短縮することが分かった。大量輸液群の7日間総水分出納量(6992±502mL)が、輸液管理について特に規定を設けずに行ったARDS Network研究対象患者における水分出納量と匹敵していることに注目すべきであろう。これと同じような結果が1987年にSimmonsらによって発表されていることを考慮すると、大量輸液を基本とする輸液管理法が長年に亘って臨床の現場で行われてきたものと類推される。研究開始前の基準時点で測定した中心静脈圧(12.1mmHg)および肺動脈閉塞圧(15.7mmHg)は、両者とも大量輸液群における目標値(それぞれ10から14mmHg、14から18mmHg)を満たしているという点においても、実際に臨床で広く行われている輸液管理法は今回の研究における大量輸液群の輸液管理法と通底していると考えられる。
 
 利尿剤および輸液量制限により肺機能が改善したとする動物実験や、水分出納量が少なく肺動脈閉塞圧が低いほど生存率が上昇するというヒトを対象とした観察研究の結果と、今回の研究結果とは矛盾なく合致している。Mitchellらは肺水腫患者89名を血管外肺水分量を指標として利尿薬投与と輸液制限を行う群または通常の輸液管理を行う群に無作為に割り当てて研究を行い、輸液制限群の方が水分出納量が少なく、人工呼吸使用日数およびICU滞在日数が短いという結果を得た。Martinらは低タンパク血症を伴う急性肺損傷患者37名を5日間にわたりフロセミドと膠質液投与を行う群またはプラセボ投与群のどちらかに無作為に割り当てた。この研究ではフロセミドと膠質液を投与された群では24時間以内にP/F比が改善したという結果が報告されている。我々の研究の制限輸液群において、肺水分量を指標としてプロトコル指示を設定したり、膠質液投与量を増やしたりしていたとしたらよりよい結果が得られていたのかもしれないが、その当否は不明である。本研究のプロトコルは研究実施に伴う危険性をできる限り低減するように設計されたものである。患者がショックの状態にあるときには、担当医は各々が通常行っている通りに治療した。制限輸液群では循環動態および腎機能が悪化する可能性が憂慮されたため、輸液負荷後またはショック離脱後12時間は利尿薬投与を禁止し、乏尿または循環動態不良の場合は迅速に輸液負荷を行うよう取り決めた。利尿薬投与量は患者それぞれの反応を観察しながら滴定し、一日最大投与量を定め、腎機能の低下傾向がある患者では利尿薬を投与しなかった。過剰輸液を防止するため、ショック状態ではない患者に対してはプロトコル規定ボーラス輸液投与を一日三回までとし、著しい低酸素血症(FIO20.7以上)または心係数4.5L/min/m2以上でショックのない患者にはボーラス投与を行わなかった。我々はいくつもの変数を設定し、幾重もの安全保持手段を講じた独自の輸液管理方法について検証したので、単に水分出納をゼロにするという単純な目標設定による治療によっても今回の研究で行った制限輸液管理法の効果と安全性が同様に実現できるかどうかは不明である。本研究で実施した血行動態および人工呼吸管理プロトコルと何らかの点で異なる方法をとれば、我々の得た結果とは違った臨床的転帰に帰結する可能性がある。

まとめ
中心静脈圧または肺動脈閉塞圧につき低めの目標値を設定した制限輸液管理法を実施することによって、大量輸液群と比べ有害事象の発生増加を見ることなく総水分出納量を大幅に減少させることができた。二群間に死亡率の有意差は認めなかったが、制限輸液管理法によって肺以外の臓器機能を損なうことなく肺機能を改善し、人工呼吸管理およびICU滞在期間を短縮させることができた。以上の結果から急性肺損傷患者に対する輸液法として制限輸液管理法は妥当であると言える。

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液 
敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い 
外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する
重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する

教訓 ALI/ARDSでは、循環動態を適切に維持しながらI&Oバランスをゼロ~ややマイナスにしてください。

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