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笑気の毒性~免疫、血液 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年10月号より

Biologic Effects of Nitrous Oxide: A Mechanistic and Toxicologic Review

免疫毒性
最近行われた多施設研究では、大腸手術を受けた患者418名を対象とし笑気の創感染および創治癒に対する影響を調査したところ(65%笑気 vs 65%窒素)、感染率、創治癒、入院期間および死亡率について有意差は認められなかった。ENIGMA試験では高濃度酸素(80%酸素+20%窒素)と70%笑気(+30%酸素)を比較し、創感染、発熱、肺炎および無気肺が笑気使用群の方が有意に多いという結果が得られている。ENIGMA試験は大手術を受ける2050名の患者を対象とした大規模多施設無作為化比較対照試験であり、入院期間の短縮 (4日間 から3.5日間へ)と創感染の減少(14% から10%へ)を十分な統計学的検出力をもって示すことができるよう計画された。しかし、ENIGMA試験には以下に記す複数の問題点があった。第一に、術後合併症については術後1日の電話調査と術後30日のカルテ閲覧で調査しているに過ぎず、合併症の診断は標準化された方法で行われたのではなく主治医の判断のみで下されたため、診断されていない合併症もあった可能性がある。外科医がどのような基準によって無気肺を診断するための画像検査を行ったのかが不明である。第二に、主治医はカルテにはさまれた麻酔記録をいつでも閲覧できる状態であったため、笑気と高濃度酸素の各群の割当を知った上で合併症を診断した。第三に、吸入麻酔薬の投与法が標準化されておらず、高濃度酸素群は笑気群と比較しプロポフォール使用量が有意に多かった。結果的にENIGMA試験では一次エンドポイントである入院期間に有意差は認められなかった(7.0 vs 7.1日; P=0.06)。しかし、高濃度酸素群では悪心・嘔吐 (OR 0.72)、創感染(OR0.72)、肺炎(OR0.51)、無気肺(0.55)が有意に少なかった。しかし、これらはすべてタイプ1エラーが起こりやすい二次エンドポイントであることに留意が必要である。ENIGMA試験にはその方法にも解析手法にも問題があるため、有意差が認められた原因は高濃度酸素によるものとも、笑気の毒性によるものとも同等に考えられる。したがって、術後合併症を減らすのに、笑気を使用せずかつ高濃度酸素を投与しなければならないのか、どちらか一方だけを採用すればよいのかは不明である。現時点では笑気が他の麻酔薬よりも免疫能を抑制するという明白な根拠は示されていない。

血液毒性
メチオニン合成酵素が阻害されると巨赤芽球性貧血が起こる。2-6時間程度の短時間の笑気曝露であっても重症患者では骨髄に巨赤芽球が増加する。だが、これまでの研究ではコバラミンまたは葉酸欠乏でない限り6時間未満の笑気曝露では血液合併症は起こり難いことが分かっている。高齢者はメチオニン合成酵素阻害作用による影響を受けやすいと言われているが、確たる証拠はない。しかし、高齢者の20%程度にみられるコバラミン欠乏や葉酸欠乏などがあり、明らかにメチオニン合成酵素阻害作用によって副作用を受けやすいことが分かっている患者については注意が必要である。6時間以上の笑気曝露によって血液毒性が発現するが、周術期に葉酸を補給するとこの毒性は予防できるという報告がある。一方、コバラミン欠乏患者では短時間の笑気曝露でも血液毒性が認められる。(つづく)

教訓 ENIGMA試験は高濃度酸素の効果を示した研究だと言われています。

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