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女性供血者のFFPはTRALIの原因 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年6月号より

Acute lung injury after ruptured abdominal aortic aneurysm repair: The effect of excluding donations from females from the production of fresh frozen plasma.

輸血関連死亡の原因として最も多いのはTRALI(輸血関連急性肺障害)である。TRALIは供血者の抗体と受血者の白血球または内皮細胞の抗原決定基が反応し白血球を介して内皮細胞が傷害される結果、肺微小血管透過性が上昇することによって発生することが多い。女性供血者の血液から製造された新鮮凍結血漿(FFP)は、特にTRALIを発生しやすいと指摘されている。女性供血者の15%から17%、二人以上の出産経験のある経産婦では25%に抗白血球抗体が認められるが、男性供血者に抗白血球抗体が認められることはほとんどない。

2003年7月、UKでは可能な限り女性供血者の血漿からはFFPを製造しないという方針を固めた。米国血液銀行も同様の措置を早急に講ずるべきであると発表した。女性供血者血漿の除外後、UK国内におけるTRALI報告件数は減少した。しかしTRALIが発生しても、輸血以外のALI危険因子が存在する場合は特に、正しく診断されなかったり報告されなかったりすることが往々にしてあると指摘されている。TRALIがALI/ARDSの原因の一つであるとするならば、男性供血者の血漿からのみFFPを製造することにより、多量のFFPを投与される症例におけるALI発生頻度が低下すると考えられる。腹部大動脈瘤破裂による緊急手術では大量のFFPが使用されることが多く、このような患者群におけるALI発生の要因の一つとしてTRALIが推測される。腹部大動脈瘤破裂症例におけるALI発生頻度の単一施設における変化を、女性供血者血漿排除前後で比較した。

1998年から2006年にFreeman Hospital(Newcastle upon Tyne, UK)で腹部大動脈瘤破裂の緊急手術を受けた患者を対象とした。術後の胸部写真を2名の放射線科医が別々に読影した。一次転帰は術後6時間以内のALI発症とした。二次転帰は低酸素症(P/F<300)、抜管までの時間、術後30日生存とした。各患者につき、投与された血液製剤の番号と供血者数を記録した。血液センターはこのデータをもとに供血者の性別を明らかにした。UK全体に女性供血者血漿の排除が浸透したのは2006年終わり頃のことであった。FFPの保存有効期限は12ヶ月であり、本対策施行以前に女性供血者血漿から製造されたFFPは廃棄されなかった。2004年以降、FFPの99%以上、血小板製剤の93%以上が男性供血者の血液から製造された。これ以前はFFPおよび血小板製剤の供血者は男性と女性が半々であった。

1998年8月1日から2006年1月31日までに腹部大動脈瘤破裂の緊急手術を受けた患者が254名存在した。記録が全て残っていたのは211名であった。129名が女性供血者血漿排除以前、82名が以後の患者であった。両群とも周術期に同等量の輸液および輸血が実施された。FFPはそれぞれ6単位、4単位(中央値)が投与された(P=0.023)。中心静脈圧は同等であった。ノルエピネフリンの使用率には有意差があり、それぞれ8.5%、24.4%であった(P<0.01)。アプロチニンは3%、5%の症例で使用された。男性供血者の血液から製造したFFPを主に使用するようになってから、ALI発生頻度が有意に低下した(21% vs 36%, P=0.04)。手術6時間後の低酸素症(P/F<300)発生頻度は男性FFP導入後の方が有意に低かった(62% vs 87%, P<0.01)。抜管までの時間と30日生存率については有意差は認められなかった。生存退院率は男性FFP導入前が49%、導入後が50%であった。ALI発症患者は、そうでない患者と比べ30日生存率が低かった(59% vs 80%, P<0.01)。多変量解析の結果、供血者を男性に限る方針の導入と、ALI発生リスク低下には強い相関が認められた(オッズ比0.39; 95%CI, 0.16-0.90)。

男性供血者血液からのみFFPを製造することによって腹部大動脈瘤破裂の緊急手術症例のALI発生頻度が低下した。多変量解析による交絡因子の調整を行ってもこの効果は臨床的にも統計学的にも有意であった。TRALIは血漿製剤5000単位使用につき1例発生すると見積もられていたが、近年では広く認識されるようになり報告件数も増えている。Mayoクリニックからの報告では頻度はもっと高いとされている。Gajicらは、女性供血者から採取した血漿製剤を使用するとガス交換が悪化し、男性供血者のものだと悪化しないと報告している。また、集中治療室入室患者を対象とした小規模な前向き無作為化比較対照試験では、男性供血者と経産供血者の血漿から製造した血液製剤を比較し、経産供血者の血漿を使用した群の方が呼吸機能が悪化するという結果が得られている。

腹部大動脈瘤破裂症例におけるALI発生原因は複雑で、輸血以外の要因も関与している。低容量性ショックと虚血再灌流傷害によって好中球が活性化されることも一因である。輸血の影響と、その他の要因の影響を区別することは困難だが今回の結果から、TRALIが腹部大動脈瘤破裂症例のALIにおいて重要な役割を演じていると言えよう。

今回の単一施設における観測研究では交絡因子の影響が排除しきれていない可能性がある。虚血再灌流傷害は肺障害の一因であるが、大動脈遮断時間は緊急手術であることもあり記録がきちんとされていないことも多かったためデータを収集しなかった。ただしその代替となる指標である手術時間には有意な変化は認められなかった。輸液総投与量には有意差はなかったが、男性供血者方針導入前の方がわずかに晶質液投与量は多かった。しかし、輸血輸液総量が約9Lに対し、晶質液投与量の差は650mLでありこれがALI発生に影響を及ぼしたとは考えがたい。さらに、多変量解析では晶質液投与量とALI発症とは相関しないことが分かった。同様に、男性供血者方針導入後の方が膠質液投与量が少ない傾向があったが、多変量解析では膠質液投与はALI発症とは相関しなかった。研究対象期間において輸血製剤使用の院内プロトコルに変更はなかった。人工呼吸管理法の変化について詳細に検討したが、低一回換気量および高いPEEPへのシフトは認められなかった。治療法に関して変化があったのは、ノルエピネフリン使用の増加であるが、これは、循環動態不良の症例が男性供血者方針導入後の方が多かったからではなく、近年のUK国内におけるノルエピネフリン使用の広がりを反映しているものと考えられた。ノルエピネフリンとALI発症には相関は認められなかった。

UKはTRALIを減らすため男性供血者血液からのみ血漿製剤を製造する方針を導入した最初の国である。TRALIの報告件数が少ないことを踏まえると、女性供血者血漿を排除したことのみによって今回のようにALI発生頻度が低下するとは考えがたいという意見もあるであろう。抗白血球抗体はUKの女性供血者の15%から17%(6人に1人)に存在する。2003年7月以前は、FFPの半分が女性供血者の血漿から製造されていたためFFP12単位につき1単位に抗白血球抗体が含まれていたことになる。腹部大動脈瘤破裂の緊急手術では中央値で6単位のFFPが投与されていた。したがって、半数の患者が抗白血球抗体に曝露されたと考えられる。UKの供血者における抗体の種類と出現頻度を踏まえると、抗白血球抗体を含む血漿製剤3単位につき1単位の抗体は受血者の抗原と適合する。したがって、FFPを6単位投与された患者6人につき1人において抗体抗原不適合が起こりALIが発生するものと推測される。この確率は本研究の結果、Mayoクリニックの報告、Palfiらの報告とも一致する。

教訓 英国紳士は女性の分まで血液を提供しなければならず大変です。
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